文と写真:五十嵐廣幸
オーストラリアの夏だからこそ!
メルボルンでは、夏は基本的にドッグスポーツのオフシーズン。競技会の開催数はグッと減る。暑さに強くない犬たちのことを考えれば当然だ。それでもノーズワークに夢中なハンドラーはレッスンや練習会だけではどうにも満足できず、どうにかして競技が行えないか?と考えを巡らせた。
夏とはいえ、朝晩は気温がグッと下がる。例えば今日の最高気温は36度だが、朝は16度ととても涼しい。いや、むしろ肌寒いほどだ。さらには湿度が低いこともあり、気温が高くても木陰や日陰に入るとそれほど暑さを感じないのである。そこでトワイライトトライアルと呼ばれる、夕暮れから始まる競技会が考案されたのだ。今年最初に行われたトワイライト競技会のスケジュールは以下の通りだ。
- 競技エクセレントレベルのコンテナサーチ
- 受付 午後5時15分〜午後5時40分
- ブリーフィング(ジャッジから競技の説明) 午後5時45分
- 競技開始 午後6時〜
競技会場のパーキングエリア
トワイライト競技会は夏に行われること、そして開始時刻が夕方からということで、室内で行うコンテナサーチまたはインテリアサーチがメインである。これは暑さ対策だけでなく、室内であれば夜遅くなっても電気をつけて競技が続けられるからだ。競技エリアである室内はエアコンや扇風機、天井から吊り下げられたシーリングファンなどで暑くないように配慮がされている。もちろんエアコンや扇風機から送り出される風は犬たちにとって大きなディストラクションにもなりえるが、それも含めて競技会なのである。
トワイライト競技会にはもうひとつ面白い点がある。競技会が平日に開催されるのだ。ハンドラーの多くは、仕事が終わってから自宅で犬をピックアップして会場へ向かう。いつもはジーンズにTシャツ姿といったカジュアルな服装で競技に出ているハンドラーが、この日は仕事着姿のままのスーツで競技していたりする。中には仕事が長引き、受付やブリーフィング、競技開始時間に間に合わないハンドラーもいる。しかし、そこは競技を開催する委員会が臨機応変に対応する。受付のテーブルの上に名前と番号が書かれたゼッケンを置いておく、競技の順番を繰り下げるなどして、なんとか参加できるように調節してくれる。
競技の順番にまだ余裕があったり、すでに競技が終わってパスして表彰式を待っているハンドラーの中には、近くのレストランやファストフード店に行って夕飯を調達してくる人も。犬を囲み、各自持ってきたキャンピングチェアーに座って話しながら夕食をとって夏の競技会を楽しむのもトワイライトトライアルならではの楽しい側面だ。
競技課目はたった一つだから、一回でもエラーアラートをすれば、開始から10秒で競技が終わってしまうこともある。おまけに多くの人が翌日は朝早くから仕事に出なければならない。そんな状況でも、参加者は40名を超えるのだ。私の今までの経験で言えば、土曜日や日曜日の昼間に行われる競技会よりも、平日の夕暮れ競技会の方が、参加者全員が待ち時間を減らすように努めたり、開催委員会を含めて全員が早く帰宅の途につけるように、率先して片付けをしたりする傾向が強いように感じる。
暑さ対策は万全に
メルボルンの夏の朝晩の気温が下がるといっても、日中の気温が30度を超える日であれば、トライアル開催委員会は犬のための飲み水の用意や、犬が体を濡らして冷やすことができるプール(よく使われるのは幼児用の砂場をプール代わりに使っている)を設置する義務がある。一方、ハンドラーには、直射日光を遮るためにシルバーメッシュと呼ばれる銀色の断熱シート、バッテリー駆動もできるポータブル扇風機、クーリングマットや、クーリングベストなどを使って、犬の安全とアニマルウェルフェアを守る責任をとることが求められている。これらのことはもちろんルールブックに記載されている。
犬たちは車待機。車が熱しすぎないよう、暑さ対策が施される。
もちろんジャッジは、犬が暑さで苦しんでいたり、競技が犬のアニマルウェルフェアに適さないと判断した際はいつでも競技を中断したり、気温が32度を超えた場合は競技会を中止にできる権限を持つ。平日の夕方「仕事終わりにいっちょやってく?」ピクニックみたいなノリの夕暮れ競技会の雰囲気ではあるが、しっかりと犬のウェルフェアは守られているのだ。
文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ
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