文:尾形聡子
[photo by Zelma]
犬との暮らしは人々に多くの喜びや幸せをもたらしてくれたり、ときに健康や社会的生活の向上に寄与してくれたりするものです。しかし一方で、慢性疾患を患う犬の世話が長年にわたれば、経済的な負担が大きいだけでなく、時間的な制約や感情面への悪影響などのいくつものネガティブな側面を抱え続けることもあります。慢性疾患は病気を発症した犬の福祉が低下するだけでなく、その犬の面倒をみる飼い主の福祉も同時に低下するおそれがあるのです。
若い時期に発症する慢性疾患もありますが、人と同様に犬も加齢により慢性疾患を発症するリスクは右肩上がりになっていきます。心疾患、内分泌系の疾患、アレルギーや皮膚病、てんかん、短頭種では気道閉塞症候群(BOAS)など、慢性疾患の多くはすぐに命にかかわるようなものではなくても症状の増悪を繰り返しながらゆっくりと進行していくため、長期にわたる治療や管理が必要とされます。
ある程度犬が高齢になれば、このような慢性疾患のひとつふたつを抱えた状態で生活しているものですが、広く見られる慢性疾患のひとつが痛みを伴うことの多い整形外科疾患です。小型犬に多いパテラ(膝蓋骨脱臼)、大型犬に多い股関節形成不全、スポーツドッグに発症しやすい肘関節形成不全や前十字靭帯断裂、ミニチュア・ダックスに好発して一気に病名を広めたともいえる椎間板ヘルニアやなど、皆さんもよく知る病気が多いのではないでしょうか。整形外科疾患は基本的に多因子性(複数の遺伝子と環境要因の両方が原因となり発症する)のため、繁殖だけではなかなか防ぎきれないという歯がゆい一面もあります。