文:尾形聡子
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犬が喜びをあらわすときに尻尾を振ることは、たとえ一度も犬を飼ったことがない人でも当たり前のように知っています。しかし、祖先であるオオカミはほとんど尻尾を振らないのに、犬がなぜ尻尾を振るように進化したのか、その理由は?と聞かれたら、答えに詰まるのではないでしょうか。犬が尻尾を振る理由はいろいろあると考えられていますが、どのようにして犬が共通して持つ視覚コミュニケーションツール(ボディランゲージ)を進化させていったのか、はたまた、犬の尻尾振りはどの程度犬の意識の制御下にあるのかなど、実は謎に包まれています。
この、あまりにも日常的な光景である、犬が尻尾を振る行動を科学的に解明することはできるのか、オランダ、イタリア、オーストリア、デンマーク、アメリカの名だたる生物系・進化系の研究所や大学の生物学者などが研究チームを組み、その謎に迫りました。研究チームは、これまでに発表されている犬の尻尾振りに関する数々の論文を徹底的に調べあげ、犬の尻尾振りに関して何がわかっているのか、何が謎のままなのかを「ティンバーゲンの4つなぜ」の観点から整理し、尻尾振りについて2つの仮説を立て、Biology Lettersに総説を発表しました。
*ティンバーゲンの4つのなぜ:1973年にノーベル医学・生理学賞を受賞した動物行動学者ニコ・ティンバーゲンが提唱した説。生物持つ機能には、メカニズム、個体発生、機能、進化の4つの観点からみた「なぜ」が存在するというもの。