文:尾形聡子
人をはじめとする動物に備わる生理現象のひとつ、睡眠。睡眠のリズムや深さなどは種によってさまざまですが、私たちの心身の健康維持に欠かすことができません。体のみならず脳を休ませることにも眠りは深く関係しています。眠りの質が悪い、眠りが浅いなどの状態が続くと、慢性的な疲労感、免疫力の低下、生活習慣病などの病気が進行しやすくなります。それだけでなく、集中力や記憶力、判断力の低下、気分の落ち込みによる精神疾患発症リスクの上昇など心身ともに悪影響が及び、日常生活のありとあらゆるところに支障が出てきます。
睡眠状態の影響は自分自身のことであれば気づきやすいですが、他者の睡眠状況による心身への影響となるとなかなか想像をしにくいものです。犬に対しても同様でしょう。ですが近年、犬の脳波を調べる研究が続けられていて、睡眠を始めさまざまなことがわかり始めています。
たとえば、睡眠と学習と脳波の関係が人と類似していることが示されたり(「楽しく学んで、ぐっすり寝よう!犬も寝ているあいだに記憶を定着」参照)、ストレス経験をした後とポジティブな楽しいことを経験した後とでは、眠りの質に違いが生じることが示されています(「ストレス経験は犬を眠りに落ちやすくさせ、眠りの質も下げる」参照)。これらの研究に参加しているハンガリーのエトベシュ大学の動物行動学の研究室は、脳波計(Electroencephalograph:EEG)を使用して犬の脳波を調べる研究を続けています。EEGセンサーは非侵襲的無装置で、fMRIでの研究などと異なりトレーニングを行わずともどのような犬でも研究対象としやすいという利点があります。研究者らはさらなる犬の脳神経機能解明に向けて、犬の頭部の形状の違い、とくに短頭種の睡眠に何らかの影響を及ぼすのではないかと考え、さまざまな犬種、頭部の形を持つ犬の睡眠時脳波の測定を行いました。
そもそも短頭種は気道閉鎖症候群(BOAS)という呼吸器疾患に罹りやすいことが知られていますが、その症状のひとつが「いびき」です。いびきをかくだけでなく、睡眠時に呼吸が停止するなど睡眠障害につながることもあり