文:尾形聡子
[photo by University of Hawai‘i–West O‘ahu] ハワイ大学ウエストオアフ校でのドッグセラピーのひとコマ。
欧米の多くの大学では、「犬の手も借りたい大学生、メンタルヘルスは犬を介在に」にて紹介されていたように、セラピー犬を介在したセラピー活動が行われています。大学生がセラピードッグと触れ合うと、試験期間中に高まるストレスや不安、ホームシックなどを和らげるだけでなく、幸福感も高まることがこれまで数々の研究で示されてきています。
しかしそのような研究のほとんどは女性の参加者が大多数で、だいたいにおいて7〜8割を占めています。この傾向はセラピー犬に関する研究に限らずあらゆる分野で見られることであり、広く参加者や被験者を募集すると女性に偏りがちになるのは度々指摘されていることでした。
そもそも当初の研究では、キャンパスにおけるセラピー犬活動は本当に効果があるのかどうか、を解明するところが目的とされていました。そのような研究が積み重ねられ、「効果あり」ということが科学的に証明されるようになった今、「どのようにして効果が生まれるのか?」ということを知ろうとする研究にシフトしてきています。その中で、カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究者らは、「誰にとって効果があるのか?」についての研究がこれまで行われていないことに気づきます。そこでジェンダーバランスがとれた参加者を対象とし、ドッグセラピーの効果に性差があるかどうかを調べました。
[photo by Oregon State University] オレゴン州立大学のセラピードッグ。
セラピー効果に性差は見られたか?
研究にはブリティッシュコロンビア大学の163人の学生が参加、そのうち女性は80名(49%)、男性は54名(33%)、ノンバイナリーやジェンダーフルイド、トゥースピリットなどXジェンダーの人が28人(17%)でした。学生はランダムに3〜4人のグループに分けられ、セラピー犬とハンドラーと一緒に20分間のセラピーセッションを受けました。
また、参加者はセッション前後にアンケートに回答しました。テスト前のアンケートでは人口統計学的な一般情報から、幸福度、ポジティブな感情とネガティブな感情の程度、ストレスやホームシックの程度、孤独感や不安感をはかりました。セッション後のアンケートはこれらの感情状態を再度はかるほか、セラピー犬との関わり方の評価や、セラピー犬と関わってどのように感じたか?というような自由回答形式の質問がありました。
アンケート回答の解析の結果、どの性別カテゴリーにおいても幸福感やポジティブな感情が大幅に増加し、ホームシックやストレス、孤独感などのネガティブな感情が減少していたことがわかりました。そして、幸福感やネガティブな感情のいずれにおいても、性別による有意な差はありませんでした。
この結果を受け研究者らは、セラピー犬によるセッションはどのような性の学生に対しても等しくプラスの影響を及ぼしていることを実証したとしています。そして、大学生がセラピー犬との触れ合いを通じて幸福感を高める機会を提供することの有益性を示してきたこれまでの研究をさらに裏付ける結果であると述べています。
[photo by UC Davis College of Engineering} カリフォルニア大学デービス校でのドッグセラピーセッションの様子。
日本の大学生に向けたドッグセラピーはまだまだ
日本でも医療現場や介護現場のセラピー犬は以前よりも受け入れられるようになってきているように思います。大学においては北里大学や慈恵医大などの病院で、セラピー犬が活躍しているのを見聞きしていました。
しかし、大学の教育現場の方ではまだまだのようです。少し調べてみたところ、札幌学院大学では定期的にセラピー犬との触れ合いセッションが開催されており(以下動画参照)、立命館大学や法政大学などでは試験的に催されてはいたものの、欧米のようには浸透していないのが現状のようです。
大学進学のため、実家で暮らしていた犬と離れ離れになったというような学生の場合には、なおのこと、このようなセラピー犬との触れ合いはホームシックや孤独感を和らげてくれるのではないかと想像します。そして犬の飼育経験がそれまでになかった学生も、このような活動から犬との触れ合い方を学べるいい機会にもなるかもしれないと思います。
日本でもいずれ欧米並みに大学のキャンパスでセラピー犬を見かけるようになったなら、きっと今よりも犬と暮らしやすい社会に変わっている証かもしれませんね。
【参考文献】
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