この隙間通れるかな…?回り道タスクにみる犬の身体認識

文:尾形聡子


[photo from Adobe Stock]

私たち人間は自分の体の大きさや形、動く範囲などを当然のごとく把握しています。もしそれができていなければ、常に体のあちこちをぶつけて怪我ばかりしてしまうはずです。人だけでなく、ビルの合間を器用にすり抜けながら高速で飛べる鳥、わずかな隙間をすり抜ける猫などを目の当たりにしたこともあるのではないでしょうか。また、獲物を丸呑みした蛇が、その後の自分の体のサイズの変化を認識して動くことができるのも、実験により示されています。

このような、個々の体のあり方から生ずる意識である「身体意識(Body-awareness)」は、直感的に心に思い浮かべることのできる外的対象像である「自己表象(self-representation)」を構成する要素のひとつです。自己と環境を区別し、環境とさまざまな相互作用をすることで学習し発達させていくことで、自らの体に関する情報をここに存在する物理的対象として記憶し、その場に対応させながら取り出す能力になります。

人間以外の動物の身体意識に関する研究は、前述した蛇やインコなど一握りしかありませんが、犬においてもこれまでにいくつかの研究が行われています。犬が興味深いことのひとつは体の大きさに非常に幅があることです。たとえば自分の体の大きさがわかっているのは、他の犬と敵対するときに重要な役割をもちます。3キロにも満たない犬は50キロの巨体相手に直接戦いを挑もうとはしまないものです。そうできるのは、自分の体の大きさがどのくらいかを認識しているためです。ちなみに犬は、相手の姿が見えずとも唸り声から大体のサイズを予測できることがわかっています(詳しくは「Grrrrrr!唸り声で犬のサイズを当てる」参照)。

人の幼児用のテストを犬用に改変したものを使った以前の実験から、犬は問題解決タスクを行う際に、自分の体が物理的に存在し、障害物となりうることを認識していることが示されています。ハンガリーのエトベシュ大学の研究者らは、これまでの知見をさらに深めるために、複数の解決方法がある回り道タスク(detour task)を用意しました。タスクにおいて、犬が自分の体のサイズに関する意識を必要とする解決策をとるか、あるいは

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