だれが誤飲をした?複数犬がいる家庭の悩み

文と写真:藤田りか子

ミミチャンは超アクティブな犬だ。森に放せばピョーン、ピョーンと倒木をジャンプをしながら走り回る。薮だって障害を飛び超えるウマのようにジャンプしていく。その点、シニアのラッコ(もうすぐ11歳)は昔誇っていたジャンプ力もなく、薮があればその中を潜っていくか、あるいは迂回するだけだ。

寒い朝、体が温められていないにもかかわらず、彼女はいきなり外でビュンビュンと走りまわるので、どうやら前脚をくじいてしまった。そして破行を見せるようになった。1ヶ月後に競技会があるのに、それはないよね、とトホホで獣医さんのところに。そして痛み止めをもらってきた。関節炎を患うラッコも飲んでいるリマダイルだ。カルプロフェンを含む抗炎症剤。こちらではよく処方される。

さて、いよいよガンドッグ競技会の日が迫り、我々はハンガリーに旅することになった。その頃までには破行はほぼ治ってはいたのだが、念のために残っているリマダイルをカバンに忍ばせておいた。渡航する日はとても慌ただしく、当日になって荷物のパッキングを。家の中をいったりきたり、あれもこれもとカバンに詰め込んだ。と、ふと足元を見ると歯跡でグチャグチャになったリマダイルの容器が転がっているではないか。

「ま、まさか、それはないよね…?」

と容器を拾って中を見ると、空!確か錠剤は10粒から15粒ぐらい残っていたと思う。それをすべて食ってしまったのだ。スウェーデンで売られているリマダイルはチュータイプの錠剤で、豚のレバーが味付けとして入っている。だから犬は喜んで食べるのだ。顔が蒼ざめた瞬間であった。一方でミミチャンは呑気な顔をして居間のソファで、オメガ3(サプリメントの一種)の錠剤が入った容器で遊んでいた。これも旅行カバンから盗み出したものだ。急いで取り上げた。こちらはセーフ。

「あと6時間で旅に出ければならないというのに!」

急いで獣医に電話をした。そして救急患者として時間を作ってもらった。食べた錠剤を吐かせるのだ。動物病院に向かってすごい勢いで高速を走りながら、私はふと、

「いや、待てよ。ミミチャンが食べた、と勝手に思い込んでいるが、もしや他の犬だったら?!」

我が家には3頭犬がいる。食べているところを見たわけではないので確証がない。私は愚かなことにミミチャンしか車に乗せてなかった。1頭しか犬が家にいなければ犯人の特定はなんとも楽なのだが、複数いると….! これまで複数犬がいることに何も不自由を感じたことはなかったが、このときばかりは状況を呪った。

動物病院につくと「こっち、こっち!」と急いで部屋に通された。そして、獣医さんに自分の疑惑を伝えた。

「いや、実は、この子が食べたかどうか、急にわからなくなってしまい…」

すると獣医さんは

「他の犬は何歳?」

「6歳と10歳のシニア犬です」

「まぁ、はっきりと言えるわけじゃないけど、6歳や10歳の犬が、プラスチックの容器を盗んでカミカミするってことはあまりなさそうだけどね」

なんと、そうだよ!獣医さんは正しい。こんな悪戯をするのは、若犬のミミチャン(当時22ヶ月齢)ならでは。アシカ(6歳)もラッコもいまじゃ、何かを盗んで噛み散らかすという遊びはしなくなっている。やはりこれはミミチャンの仕業だ。これまでにもときどき机にあるものを盗んではグチャグチャに噛んで遊んでいる。

というわけで注射を打ってもらった。しばらくすると、ミミチャンはオエッオエッと胃の中のものを全部吐き出した。吐いたものをみたけれど、錠剤は見つからず。おそらくもう溶けてしまっているのだろうとのこと。点滴をうってしばらく休ませた。そして事件発生から6時間後、いざハンガリーへレッツゴー。アシカとラッコも別に気持ち悪そうではない。食欲もあるし、排泄もいつものごとくだ。やれやれ、やはりリマダイルを盗み食いしたのはミミチャンであるのは確定だ。そしてそのときからリマダイルはどんなに慌てている時でも絶対に犬の手のとどかないところに置くよう徹底したのである。