犬の咬傷事故の予防と対処、応急処置について

文:サニーカミヤ

[photo by smerikal]

今日は飼い犬の散歩中に飼い主が他の犬から腕や手を咬まれないための予防法と、飼い犬が咬まれた時の対処法をご紹介いたします。

まず、一般的に犬が人に傷を負わせるくらい強く咬むときの理由は下記の3つがあります。

  • 縄張り意識による攻撃本能
  • 恐怖心からの防衛本能
  • 飼い主や自分を守るための攻撃行動

普段、飼っている自分の犬や散歩中のさまざまな犬を観察していると、耳や尾、うなっている表情、前足の踏ん張り方などで、ただ威嚇しているのか、隙あらば咬む体勢なのか、タイミングがだんだんわかってきます。

次のビデオをご覧ください(ただし、犬同士の咬傷事故をご覧になるのが心配な方は無理せずに必ず飛ばしてください。かなり衝撃を受けてしまうかもしれません)。

「Boston Dog Fight – July 30th 2016」(出典:YouTube)

こちらの映像は、散歩中、すれ違いざまに突然、中型犬が小型犬に咬みついた事例ですが、このように咬みついた犬の動きは一瞬にして起こり、早く対応しないと死亡事故など大変な事態にまで進展してしまいかねません。事前に犬が咬むときの行動習性などを知っておくことで、飼い主や動物事業関係者への咬傷事故による被害を予防することが可能です。

チワワのような小型犬でも、大型犬にアタックして大けがをさせることもありますので、一概に、犬種や大きさで判断できないと思います。

次のようなケースで咬傷事故が起こる可能性があります。

ドッグランで、飼い犬が他の数頭と遊んでいる内に1頭の犬が、突然、飼い犬を威嚇するように興奮して吠え出し、取っ組み合いになり、首と腹部など複数箇所を咬んだ。引き離そうとした飼い主もすねやふくらはぎを複数箇所咬まれた。
 散歩中、ノーリードで走ってきた大型犬が突然、飼い犬(小型犬)の首を咬み、咬んだ状態で首を大きく振って、車道に放り投げ、さらに追いかけてとどめを刺すかのように頸部に咬みついて離さない状態になり、車のクラクションでせかされて、さらにパニックになり、引き離すのに時間が掛かったため、飼い犬が出血多量になって重症を負った。
 トリミングが終わって、サロンのフロアでお客様の犬同士を遊ばせていたところ、電話が掛かってきたために目を離した隙に複数の犬が1頭の犬に襲いかかかった。その犬は複数箇所を咬まれてしまい、出血多量のショック状態となり、瀕死の状態になった。
 ドッグランで飼い犬が他の犬から咬まれたため、引き離そうと咬んだ犬の口の中に手を入れたところ、咬み替えられて、薬指と小指の肉がそぎ落とされるほど強く咬まれた。

人が犬に咬まれた箇所で圧倒的に多いのが、指や手のひら、そして腕です。顔を近づけすぎると鼻や唇を咬まれることがあります。

以下、こうすれば、必ずこうなるということではなく、コンセプトを知ることで事態対応をスムーズに行える可能性が高くなることを前提としてご紹介します。

1、人が犬に咬まれないための予防法

もし、ノーリードの犬が襲ってきたら、どうするべきか?

  1. 走って逃げないこと。逃げても犬の方が速く、さらに興奮させてしまう可能性が高い。
  2. 立ち止まってジッとして動かず、胸を張って大きく見せること。
  3. 目を合わせず動かないこと。吠えながら向かってくる犬と対峙したときは、目をそらして、興味がないことや危害を加えないことを可能な限り体表現で伝える。犬に叫んだり、怒鳴ったりしないこと。
  4. 拳を握っておくこと。拳を握る理由は指を伸ばしていると咬まれる恐れがあるのと拳を咬まれても離すのが容易であるため。ただし、前腕を咬まれないように注意すること。出血多量になるため。
  5. おもちゃなどや水のボトル、トリーツがあれば、遠くに投げたり、ばらまいたりして気をそらせている間にゆっくりと歩いて立ち去る。
  6. コマンドを与えてみる。しつけトレーニングを受けている犬であれば、自信を持って、できるだけ低く、しっかりとした声で、「待て」「おすわり」「伏せ」「止め」などのコマンドに応じるかもしれない。
  7. もし、1〜6を行っても襲ってきた場合は反撃する。犬の鼻を殴るか、喉を突くか、後頭部を叩く。
  8. 大きな声で助けを呼ぶ。飼い主が探しているかもしれない。
  9. 首と顔を守る。大人であれば、倒れて首や顔、動脈を咬まれて大量出血しない限り、犬に咬み殺される可能性は少ない。
  10. 咬まれないように犬の首輪やハーネスを強く握って倒す。犬の凶器は歯であるため、首を膝や体重で押さえ込む。
  11. 犬に強く咬まれた状態は牙が腕や手に刺さっている。犬は前足を踏ん張った状態で咬んだ部位の肉を引き裂くために左右に首を降るので、水平に引き離そうとして引っ張ると傷口が広がる可能性が高い。
  12. 警察に「被害届」を、各地区総合支所区民課に「咬傷事故被害届」を出すことができる。また、現場近くの防犯カメラの管理番号と発生時刻を警察に伝えることで、証拠映像を確認できる可能性もある。

「How to Survive a Dog Attack」(出典:YouTube)

(参考資料)
知らなかったじゃすまされない 咬傷事故編(東京都)

クリックしてkousyoujikotirasi.pdfにアクセス

2、咬んでいる犬の引き離し方

  1. できるだけ気づかれないように人や犬を咬んでいる犬の後ろに近づき、首輪やハーネスの首側をしっかりと掴んで、素早く犬の胴を自分の股で強く挟み、犬が体重を使って咬んでいる部分を引き裂かないようにする。
  2. 犬の首輪を首が絞まるくらいまで両手で絞り上げるように強く握るか、後頭部の下の毛をたるみの無い状態までつかみ上げる。ただし、首輪が劣化していたり、ちぎれそうな場合は、後頭部の毛と首輪を一緒につかむことが望ましい。
  3. 首輪や後頭部を強く握って、頭を振らせない状態にしたまま垂直方向に犬の前足が付かない状態まで持ち上げ、犬の呼吸ができないくらいに首を締め上げる。ただし、口を離したら窒息させて殺してしまわないように注意すること。
  4. 咬みついた状態を解いた場合、咬まれないように持ち上げたままリードなどで犬の口を開かない程度に結んでから、再度、襲わないように安全な距離まで引き離す。
  5. もし、咬んだ犬が咬みついた状態から解けない場合は、犬の喉の付け根を指で押して(咽頭反射法)咳き込ませる。
  6. 咬みつきから解放された場合は、まず、犬が他の人を咬まないように注意し、犬の飼い主や関係者等に引き渡す。ケージに入れることも考慮。

「How to stop an attacking dog assault from biting a victim – AKBAN Self defense Bite release」(出典:YouTube)

3、犬に咬まれた後の応急処置

もし、人が犬に咬まれたら、小さな傷でも素早く水で洗い流し、咬傷箇所の消毒と炎症予防のために冷却し、出血していれば、清潔なハンカチなどで圧迫止血を継続しながら、咬まれた部位の挙上を維持した状態で、近くの整形外科などの病院へできるだけ早く行くようにしてください。可能性は低いですが、咬んだ犬が狂犬病キャリアではないとは言い切れません。


出典:WikiHow to treat a Dog Bite


出典:WikiHow to treat a Dog Bite


出典:WikiHow to treat a Dog Bite

いかがでしたでしょうか?

今月は台風シーズンのど真ん中ですが、毎年、巨大台風発生時には外飼いの犬の犬小屋が強風により飛ばされたり、線状降水帯による河川の溢水などの浸水などで、犬が恐怖を感じて暴れ、繋がれていた鎖やロープを外して逃げてしまったりすることがあります。

一般的にですが、外飼いの犬は中型犬以上が多く、しつけトレーニングを受けていないこともありますので、逸走してしまうと人や犬に咬みついたりする危険もあるかもしれません。また、群れて野犬化することもあります。

台風接近は3時間おきに気象庁から勢力、規模、速度が発表されますので、住んでいる地域に台風が近づいているときには、外飼いの犬が逃げ出さないように飼い主は、逸走防止はもちろん、玄関や安全な場所に保護して、「健康と安全」を守ってあげてください。

以下は今年3月に環境省から発行された資料のリンクです。ぜひ、巨大台風や線状降水帯対策にお役立て下さい。

人とペットの災害対策ガイドライン 災害への備えチェックリスト

クリックしてfull.pdfにアクセス

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本国際動物救命救急協会代表理事。一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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