文:藤田りか子
[Photo by Cassidy Dickens on Unsplash ]
今は昔、数十年前。アメリカの大学に入り、そこで感心したのは学生への様々なサービスがキャンパス内に取り揃えられていたことだ。入学した日にそれらのサービスについて説明会があった。レポートや小論の「てにをは」や文法をみてくれる指導員付きの「ライティングセンター」があったり、キャンパス生活をきちんと送れるようメンターを紹介してくれる制度があったり、心の相談にのってくれるカウンセラーへのアクセス、ジェンダー問題についての相談所もあった。さらには、女性駆け込み寺のシステムすらも用意されていた。
日本の「おもてなし」や「お客様は神様です」精神とはまた異なった「ウェルビーング」のサポートサービスが欧米にはあるんだなとその頃学んだものだ。人として健全に過ごせるよう、との気遣いが大学コミュニティ内にあった。
そんな観点をもつからこそ、こんなサービスも登場したのだと思う。イギリスのエジンバラ大学で、”Paws on Campus” というプロジェクトが同大学のジョー・ウィリアムズ教授と王立獣医大学のアンドリュー・ガーディナー博士によって立ち上げられた。犬介在活動を通して、学生のストレスや不安、気分の落ち込みを少しでも和らげようというサポートサービスだ。もちろんプロジェクトには、人の健康生活を調査するという意図も含まれている。Pawsとは犬の足。これをPause(休憩)という言葉でかけた。つまり犬を介在させ心をやすませる場所、を意味する。「犬の手を借りて学生の心に平和を!」と解釈するといいだろう。
このプログラムでは、学生がセラピー犬とそのハンドラーといっしょに週に4回のセッションを受ける。犬と触れ合ったり、犬と共に呼吸法、リラクゼーション法などいろいろなエクササイズに参加する。プログラムに参加した女子学生によると
「マインドフルネスは、これまではやろうとしてもなかなかうまくできませんでした。でも犬とやるとうまく集中できるんだということがわかりました」
犬がそばにいてくれることで、エクササイズがより楽しく簡単にこなせるらしい。犬介在活動の中で、日頃のストレスや不安に打ち勝つためのツールを手に入れるだけではなく、学生たちは犬のウェルビーイングについて、自分自身、他人に対する思いやりについても学ぶこともできるのだそうだ。アンドリュー・ガーディナー博士は言う。
「犬に癒してもらうことだけを期待するのではなく、私たちを癒してくれる動物たちも不安なく楽しく共に過ごすべき、を参加者は認識してくれるようになります。またボランティアの犬への影響を評価することも、このプログラムにおける研究に含まれているんですよ」
【参考文献】