日本での、犬との生活と喘息発症との関係は?

文:尾形聡子


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犬の皮脂やふけ、唾液などには人のアレルギーの原因となるタンパク質があることが知られています。喘息のように、アレルギー反応により発作が起こる病気の場合、犬のアレルゲンに反応してしまう抗体を持つ人であれば、犬との接触は発作の引き金になったり悪化させたりする要因になります。

しかし一方では、幼少期の犬との暮らしが喘息の発症を抑える効果があるという研究がいくつか発表されています(以下リンク先参照)。ですが、欧米で行われている喘息とペット飼育との関係を見る研究結果は一致していないのが現状です。生活スタイルや環境条件が異なる場合、それらの関係性も変わってくる可能性も考えられます。

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日本での喘息の発症状況を調べたところ、おおむね小児の6%、成人の3%程度に発症しているようです。子どもの17人に1人、大人の33人に1人程度が喘息を持っているということになり、決して少ない数ではありません。国立環境研究所の研究者らは、犬猫の飼育と喘息の関係を調べるパイロット研究を2020年に発表しており、そこでは犬猫の長期飼育あるいは幼児期の飼育者は、一度も飼ったことがない人と比べると喘息発症リスクが低いことを示しています。ただし、その研究では小児410人を対象とした小規模のものだったため、同研究者らは対象とする年齢範囲と人数を増やし、新たに犬猫の飼育と喘息との関連性を調べました。

犬猫の飼育は喘息発症リスクの低下と関係

研究者らは日本ペットフード協会の2021年に実施した調査データを使用し、犬の調査においては4,290人(飼育経験あり1,769人、なし2,521人)を対象に、猫の調査においては4,308人(飼育経験あり1,143人、なし3,165人)を対象として解析を行いました。

犬における追跡期間は平均48.4年で、その間に喘息を発症したのは犬の飼育経験者で5.7%、非経験者で14.8%となっていました。猫における追跡期間は平均48.5年、猫の飼育経験者で5.6%、非経験者で13.5%が発症していました。さらに解析をしたところ、犬の飼育非経験者は経験者と比べて2.01倍、猫の非飼育経験者は経験者と比べて2.24倍喘息を発症しやすいことがわかりました。

つづいて研究者らは犬や猫の飼育を開始した年齢別(10歳、20歳、30歳、40歳、50歳、60歳までの飼育経験の有無)に解析することで、犬や猫の飼育経験が喘息発症のリスクを低下させる臨界期があるかどうかを調べました。犬においては、30歳までに犬を飼ったことがない人は喘息発症率が高く、猫においてはすべての年齢区分で発症率はほぼ同程度となっていました。

これらの結果について研究者らは、日本における犬猫の飼育が喘息発症の予防効果となりうることを示した初めての研究だとしています。猫はどの年齢で飼い始めても同程度の発症予防効果が見られた一方で、犬の場合は人生の早い時期に暮らし始めることが重要であることが示唆されたと結論しています。


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研究では、飼育経験者は非経験者に比べて喘息発症リスクは半減していたことが示されていましたが、100%防ぐものではありません。喘息は複数の遺伝子、そして生活習慣や環境が作用して発症する多因子疾患であるからです。ですが、日本は欧米とは住宅事情や生活環境が異なるため、このような日本初の研究データは貴重なものだと感じます。

また、大阪府立大学では犬のアレルゲンのひとつ、Can f 1の立体構造を明らかにしています(詳細は以下のリンク先をご覧ください)。犬アレルギーがあるがために犬との暮らしを諦めていた人に朗報が届く日が、遠からず訪れることを願いたいものです。

世界初 主要イヌアレルゲンCan f 1の立体構造が明らかに! イヌアレルギーに対する低アレルゲン化ワクチン開発に向けた大きな一歩! | 大阪府立大学
大阪府立大学のプレスリリースのご紹介。世界初 主要イヌアレルゲンCan f 1の立体構造が明らかに! イヌアレルギーに対する低アレルゲン化ワクチン開発に向けた大きな一歩!

人だけでなく、犬でもアトピー性皮膚炎などアレルギー関連疾患が増えています。愛犬と一緒にたくさん散歩をして楽しく過ごし、免疫力を高め合って健康に暮らしていきたいですね。

【参考文献】

Exposure to dogs and cats and risk of asthma: A retrospective study. PLoS One. 8;18(3):e0282184. 2023

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