ペットの食餌のタイプ、環境にもっとも悪影響を及ぼすものは?

文:尾形聡子


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ペットの食餌が地球の環境に与える影響について、考えてみたことはありますか?人はもとより犬も毎日何かしらの食餌を摂取します。実は、環境と食は密接な関係にあるのです。

SDGsという言葉をあちこちで見聞きするようになった昨今。地球上すべての人たちが将来的に安心して暮らしていけることを目標に、さまざまな問題に対する取り組みが世界的に行われるようになっています。身近な例では2020年7月から、プラスチックごみのリサイクルや削減のためにスーパーなど商店のレジ袋が次々に有料化されていったことが挙げられます。

食料生産と環境問題

SDGs(Sustainable Development Goals)とは持続可能な開発目標のことで、外務省の「JAPAN SDGs Action Platform」のサイトには以下のように説明されています。

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)別ウィンドウで開くの後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。

17の目標とするゴールを示す以下のポスターを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。


[image from 国際連合広報センター]

地球の環境問題において切っても切れないのが食料生産です。その環境に与えるすべての影響の4分の1が食料生産にあたると言われているほど、食と環境問題は密接な関係にあります。単純に、食料を必要とする人間が増えればその分の食糧が必要となりますが、犬や猫のコンパニオンアニマルの頭数も昨今増加傾向にあるため、同様に彼らへの食糧もより多く必要とされるようになっていると考えられています。2019年のデータでは、犬の飼育頭数の多い国トップ3は、アメリカ(7,680万頭)、ブラジル(5,220万頭)、中国(2,740万頭)で、猫はアメリカ(5,840万頭)、中国(5,310万頭)、ブラジル(3,500万頭)であると推定されています。

これだけ多くのペットが地球上で暮らしているものの、ペットの食餌が環境に与える影響について多くはわかっていません。たとえば日本を対象に行われた2018年の研究では、犬1頭のエコロジカル・フットプリント*は日本国民1人分のそれに相当することが示されています。また、2020年の研究では、ペット用ドライフードが世界のCO2eq(CO2 equivalent)排出量のうち最大で2.9%と農地使用量の1.2%を占める可能性があると示唆されました。このように、ペットの食餌が環境に及ぼす影響は、かなり大きなものであることが想定されています。

*エコロジカル・フットプリントとは、地球の環境容量をあらわしている指標で、人間活動が環境に与える負荷を、資源の再生産および廃棄物の浄化に必要な面積として示した数値である。通常は、生活を維持するのに必要な一人当たりの陸地および水域の面積として示される(ウィキペディアより)。

そこで、世界的にもペットの飼育頭数の多い国でもあるブラジルのサンパウロ大学の研究者らは、ペットのためのドライフード、ウェットフード、手作り食の3つのタイプの食餌が、温室効果ガスの排出や土地利用、酸性化、富栄養化、淡水の使用量など環境に及ぼす影響を評価すべく、調査を行いました。


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もっとも環境に悪影響を及ぼしかねないフードのタイプは?

研究者らは、犬用のフード618種類(市販ドライ316、市販ウェット81、市販手作り139、ウェブサイトからの手作り82)と猫用のフード320種類(市販ドライ180、市販ウェット104、市販手作り11、ウェブサイトからの手作り26)について評価を行いました。

合計で938種類のフードには合計212の成分表示があり、そのうち46.2%が動物性の原材料、53.8%が植物性の原材料でした。ドライフードとウェットフードは手作り食にくらべて少し動物性の原材料の含有率が高く、49.5%であり、手作りは45.3%となっていました。

環境への影響の試算では、犬猫両方においてウェットフードが環境への影響が有意に大きく、特にドライフードとの差が大きいことが示されました。手作り食の環境影響はドライとウェットの中間程度でしたが、猫用の手作り食の水の使用量についてはドライフードと同程度であることがわかりました。

1グラム当たりのカロリーについてはドライフードがもっとも高いことがわかりました。栄養素で見ると、ウェットフードと手作り食はタンパク質含有量が多く、ウェットフードの場合、ドライフードの2倍のエネルギー量が動物性の原材料によるもので、その点も環境への影響が大きくなる要因となっている可能性を研究者らは指摘しています。

今回の結果を鑑み、10kgの犬が1日あたり平均534キロカロリーの食餌を摂取する場合、ドライフードのみを使用した場合には年間828.37kgのCO2を排出し、一方でウェットフードのみの場合には年間6,541kgのCO2排出があると見積もることができると研究者らは言っています。その差はおよそ8倍(689%増)ありました。これはブラジル国民一人の年間CO2の排出量6.69トンの12.4〜97.8%となり、ブラジルの犬全頭5,220万頭で考えると、ブラジルの国としてのCO2総排出量の2.9〜24.6%を占めることになるそうです。

これらの結果は、ペットフードの環境への影響は大きく、持続可能性の議論においてペットフードが非常に重要な位置にあることを浮き彫りにしていると研究者らは述べています。


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私たちにできることは?

限りある資源をどのように利用し、地球の環境をどのようにして守っていくかを考えることはとても大切です。太古の人々が脈々と犬との生活を続けて培ってきてくれたものを、さらにより良い形で未来に残していきたいものです。

今回の研究では、ウェットフードの環境への影響がもっとも大きいという結果になりました。ですが、だからといってウェットフードは悪だと決めつけるのは早計です。地球の環境のために簡単にできることは山ほどあります。食餌に関して言えば、たとえば犬に過剰に食べ物を与えないことです。余分に摂取したタンパク質は体外に排出されてしまいます。一方で、過剰な脂肪は体内に蓄積され肥満につながるおそれがあります。肥満になればそこから健康面での影響が出てきて、また別の環境問題が浮上してくることも考えられます。

生活スタイル(運動量)や年齢によって必要とされるエネルギー量は異なり、栄養不足の状態が続くことは犬の健康のために避けなければなりません。ですが、あまりにも多くの食べ物を与えることは、少なくとも資源の浪費につながる可能性がある、ということになります。また、市販のフードを使うのであれば、賞味期限内に消費できる分を購入し、無駄に捨ててしまうことがないよう管理することもできます。

犬と暮らしているからこそ、よりいっそう地球にやさしい生活を送ろうと心がけられるようになるといいのではないかと思います。そしてそれがワンヘルス、ワンウェルフェアにも繋がっていくのかな、そんなふうに思うものです。

【参考文献】

Environmental impact of diets for dogs and cats. Scientific Reports, 12(1):18510, 2022