文:藤田りか子
[Image by Mat Coulton from Pixabay ]
みなさんは愛犬への食事、どうやって与えているだろうか。
「フードボウルにご馳走を盛ってあげますよー」
そう、たいていの飼い主はそう言っている。私もその一人だ。だが、いつも、というわけではない。ボウルに盛るのもいいのだが、犬の感性にぐっとくる食事の与え方もある。それは、探す、を食事に取り入れてあげること。たとえば、芝生にドライフードを散りばめたり、ニーナオットソンの知育玩具(下の画像)にフードをいれて食べさせたり…。
「かわいそうに、そんなに苦労させて食べさせることないのに」
と思う人もいるかもしれない。だが悲観するなかれ!生き物の多くには「労働欲」がデフォルトで備わっている。人だって「ひと汗かいた後の食事はうまい!」というではないか。実は人だけではなく犬を含めた多くの動物は「労せず食を得たい」よりも「労して食を得たい」と思っているものだ。これは1960年代に動物心理学の研究者であるGlen Jensenがラットを使って証明をしている。
一旦ペダルを踏んでペレットを得ることを学習したラットは、ペレットてんこ盛りのお皿より、ペダルを踏んで得る方を選択した。それも1匹2匹のラットではない、実験に参加した200匹のラットのうち、1匹を除いたすべてがあえてペダルを踏んで食を得たというのだ。この現象は心理学の世界で「コントラフリーローディング」と呼ばれている。
コントラというのは「反対」を、フリーローディングとは「すねかじり」とか「たかりや」を意味する。コントラ・フリーローディングで「反すねかじり」、すなわち自分の努力で食っていこうとする、の意味となる。コントラフリーローディングは、ラットや犬のみならず、チンパンジー、ハト、ブタにおいても観察されている。
コントラフリーローディングとくれば、そう、そのまま環境エンリッチメントに通じる概念だ。というわけで、犬の生活を豊かにしてあげたい!と心から願うのであれば、栄養のととのった手作り食のご馳走もいいけれど、食そのものの他に「与え方」にも工夫をいれてあげるのはどうだろう?
コントラフリーローディング式食事の与え方として以下を参考に。
1. スニッフマット
ノーズワークマットとも呼ばれている(ちなみにドッグスポーツとしてのノーズワークでは犬の探すターゲットはフードではない)。フードボウルの代わりに、このマットに一食に必要なドライフードを隠していれるのはいかがだろう?あるいは数回にわけていれてもいいだろう。犬はにおいながら、一粒一粒のドライフードを探して出しては食べるはず。
[Photo by Amazon.se]
2. 庭の芝生
芝生の庭がある人はぜひ、芝生にフードを散りばめよう。スニッフマットを買わずに、同じ効果を得ることができる。街で拾い食いの癖がつく!と心配な人は、何か合図を設けるといいだろう。たとえば「フード!」など。そのときは、一度お座りや待てをしてもらって、犬の意識をこちらに集中させてから号令を。コンタクトをとってくれたご褒美として「フード!」の合図が出る、と犬に学習してもらえば、拾い食いの心配はなくなる。なお、よりクリエイティブなフードサーチのやり方については「切手集めと犬の朝ごはん」という記事にて動画で解説している。
庭でフードサーチに慣れたら、このように庭の茂みの中にフードを放り込むと、さらに探索が犬にとって楽しいものとなる。[Photo by Rikako Fujita]
雪が降ってもなんのその!我が家の犬たち。雪の中に少し埋もれるので、これも犬にとっておもしろい探索行動に。 [Photo by Rikako Fujita]
3. コング
手作り食を与えているという人は、おそらくフードはほぼ液体状なので、スニッフマットに散らすことはできないはずだ。ならばコングに入れて凍らせて犬に与えるのは?それだけでは飽き足らないのであれば、コングを隠してそれを探してもらってから愛犬に「チュパチュパ・ガリガリ」やってもらう。そうすると「探す」という行動がより活性化される。
[Photo by Alan Levine]
どうしても食事はフードボウルから食べさせたい、という人もいるだろう。それはそれでよし。ただし、日頃から犬のメンタルヘルスのために到達感のある経験を何かさせることを忘れずに。
食事のときに限らず、おやつを与えるときにも以上のようなコントラフリーローディングをやってもOKだ。あるいは、普段は普通にフードボウルから与え、日常にノーズワーク(ターゲット臭をさがさせる)をさせるなどしてメンタルを刺激してあげれば、犬は幸せに暮らしてくれるはず。
最後にもうひとつ!猫にもコントラフリーローディングの実験をしたそうであるが、唯一、労働を要しないタダ飯を選んだ動物であったということ。とはいえ、もしかして実験のセッティングがそれほど猫にとって魅力的ではなかったのかも、とチラと思った次第だ。何しろ猫は根っからの狩人。レバーを押すというような操作よりも、動くものの方が魅惑的。実験がそのようなものでなりたっていたのであれば、きっとコントラフリーローディングのコンセプトにマッチしたのではないだろうか。なにしろお腹がすいてなくても、ネズミや小鳥を猫が捕獲するということはよく起きている。
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