文:尾形聡子 写真:藤田りか子
スウェーデン紀行、初回はアシカの持つ素晴らしい人への協調性についての体験を語らせてもらった。記事のタイトルにもあるように、スウェーデン滞在中は藤田家で本当にゆるりと過ごさせてもらったのだが、その中で感じたことを引き続き紹介していきたいと思う。
皆さんもご存知のように、藤田さんには3頭の愛犬がいる。カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコ、そしてフィールド系ラブラドールのアシカ、その娘のミミチャン。犬種は違えど皆レトリーバー。全犬そろってボールが大好き、水が大好き。けれど、当然のことながら性格は違うし、私がキュンと惹かれるところもそれぞれだった。前回のエピソードではウキウキと脱走してしまったラッコではあったが、今回は彼の魅力をとくとお伝えしたい。
スウェーデンに到着した当日、アシカとは空港内で、ラッコとミミチャンとは駐車場での顔合わせとなった。ラッコと初めましての挨拶をしたあと、もれなくラッコから例の洗礼を受けた。そう、「股間嗅ぎ」だ。2年ほど前の藤田さんの記事「うちの犬、性欲強すぎるんですけど」を覚えている方もいるだろう。読めば、ラッコの父犬も、そして同胎の兄弟も皆、とてもオス性の強い犬だという。
藤田さんも私ならばということで(ラッコの股間嗅ぎがどんなものかを経験して欲しかったのだと思う)、その行動をあえて止めなかった。現在9歳といえども、やはりラッコはラッコ(若い盛りはもっと激しさがあったのかもしれないけれど)。私についてはお色気ムンムン、女性ホルモン出まくりの時代は遠に過ぎているのだが、それでもチェック対象となったというわけだ。空港での洗礼を受けたあとは、藤田家に向かう途中の休憩中も、藤田家についてからもその後、股間嗅ぎはされなかった。もしかしたら色気が足りなかったせいかもしれないけれど!
それはさておき。藤田さんの家での滞在初日から、すっかりラッコの魅力に取り憑かれてしまったのだ。
いの一番にキュンとしたのは、「撫でて」と言ってくるときの様子。基本的にはこちらが椅子に座っている時なのだけれども、ラッコは体高があるから撫でるのにちょうどいいところに顔や体がある。「撫でて」のきっかけはラッコの方から近づいてくることなのだが、それに気づかないでお喋りしていると、立派な鼻で私の手をずいっと押してくる。その押し方がいい塩梅な上に、撫でている最中に寝そべったりせず、基本、直立不動のまま。少し撫でては手を休めると、そのままの姿勢でひたすら静かに立っている。お尻をこちらに向けて「撫でて」と立っているときにも、お尻を向けたままで振り返りもしない。微動だにせず待っているその佇まいにノックアウトされてしまったというわけだ。
藤田さんはラッコのことをオレ様だと言う。確かに「撫でて」ではなく「撫でろ」なのかもしれない。でも、直立不動でじーっと待っているところなど、健気に感じてしまう一面もある。もちろん、「撫でて〜、かまって〜」とハチャハチャしたところは微塵たりともない。とにもかくにも、あの直立不動の佇まいがなんとも…!
そう、佇まいとくれば体格。ラッコは抜群に美しい犬だと感じ入った。さすがはカーリー、初期のドッグショーにおいてショードッグとしての地位を確立してきただけあり、その当時からすでにカーリーとしてのプロポーションが完成されていたという(犬曰くムック「Retrievers and all about them」参照)。特にオスのラッコは骨格がガッチリしており、かといって筋骨隆々すぎることもなく、見ても撫でても素晴らしくバランスのいい好みの体格だった。決して見た目だけではないが、どうしても見た目に好みを抱いてしまうのが人というもの。巻き毛であるところもキュンとなるポイントだった。
そして性格。前述した「Retrievers and all about them」の中で藤田さんが「レトリーバー気質ではなくてカーリー気質」と評しているように、ラッコには独特のユーモアがあった。「ラッコの通った後はいつも嵐が過ぎたようになる」と藤田さんは言うし、確かにそう思うことも度々あったのだが、とにかく憎めないのだ。そのドタバタした感じはひょうきんとも、ちょっと抜けている感じとも取れ、ついつい笑ってしまう。見た目は二枚目なのに、性格は三枚目なところがあるとでも言えばいいだろうか。そんなカーリーの見た目と性格のアンバランスな部分もまた、人の心を鷲掴みにするのかもしれない。
実は、本物のカーリーと会ったのはラッコが人生初めてだった。にもかかわらず、初カーリーのラッコにすっかり魅了されてしまった。カーリーにプリミティブなところが残っていると感じたのも大きいかもしれない。かつての愛犬たち、スパニッシュ・ウォーター・ドッグもそういう犬種だったからだ。スウェーデンを再訪することができたら、ぜひともカーリーのブリーダーさんのところへ行ってみたい。メスのカーリーがどんな感じであるのかにも興味津々である。
それにしても滞在中、毎朝欠かさずベッドのところまで一番に挨拶をしにきてくれたラッコ。ドアを開けてズンズン入ってくるところがとってもラッコらしかった。そんなことをアレコレ思い出していると自然に笑みが浮かんでくる。そんなパワーがラッコの個性であり素敵な魅力だ。
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カーリーだけでなく、レトリーバー6種、そしてレトリーバーという犬についてより詳しく知りたい方には、こちらのムックをぜひご一読あれ!
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