文:尾形聡子
[photo by Prannveer Jayani]
大切な誰かを喪失することで引き起こされる悲嘆の感情や行動は、決して人だけに特有なものではありません。これまで、いくつかの生物種において、仲間の死に影響を受けて特別な行動を取ることが報告されています。霊長類、クジラやシャチなどでは、仲間が死亡した場合(通常は若齢のこども)、亡くなった動物を支えたり運んだりすることが観察されています。最近では象のこちらのニュースを見た方もいるのではないでしょうか。
https://karapaia.com/archives/52275401.html
ただし、人間以外の生物種が仲間の死と対峙したとき、彼らの中に人と同様の悲嘆感情が生じているかどうかを科学的に示すことは非常に難しいため、それに関する見解はまちまちなのが現状です。
野生のイヌ科動物では亡くなった仲間に対する行動反応はほとんど観察されていません。また犬においては、悲嘆感情はもとより、悲嘆行動をとるかどうかというところにおいても見解は分かれています。犬の悲嘆の定義がないだけでなく、そもそも犬に悲嘆感情を抱く能力があるのかどうかもはっきりわかっていないからです。ただし犬は非常に社会性が高く、人と強い絆を結べる、つまり、愛着関係を築くことのできる動物です。そして、子どもにとっての親(養育者)と、犬と飼い主との関係は似ていることが過去の研究で示されていることから、飼い主(養育者)の喪失は犬の悲嘆行動としてあらわれてくる可能性があると考えられます。
また犬は、同居犬に対してもそれぞれに個別の関係性を築くことがわかっています。飼い主とはまた別の「よきパートナー」になりうるのです。このことは、同居犬との間に感情的な結びつきがあることが前提とされるため、同居犬の喪失によっても悲嘆行動が引き起こされる可能性が予測されます。
以前、2016年に発表されたニュージーランドの研究を以下のブログで紹介してことがあります(詳細はリンク先を参照してください)。その研究では、同居犬の死が原因となるストレスが残された犬にかかり、何らかの行動の変化が起きたのだろうという結論が示されていました。
しかしこれまで、このような、別の犬の死に対する犬の悲嘆に関する科学的な研究はほとんど行われていないのが現状で、わずかな現存のデータも解析対象数が少なく、飼い主の個人的感情にも大きく左右される傾向にありました。そこで、イタリアのミラノ大学が率いる研究チームは、同居犬を喪った犬の悲嘆に関連する反応を同定・定量化することを目的として、対象とするサンプル数を増やして調査・解析を行いました。
犬の飼い主は犬の悲しみの感情を過剰に捉える傾向があります。また、自らのペットロスによる悲嘆反応により、さらに犬の反応を膨らませて受け取ってしまう可能性もあります。一方で、飼い主の日常生活における雰囲気や反応の変化に犬が影響を受け、行動が変化してくる可能性も考えられます。
そのため、研究チームは、2019年の研究で科学的に検証済みのアンケート(Mourning Dog Questionnaire-MDQ)を使用し、飼い主感情などに関係なく残された犬が同居犬を亡くしたことそのものによって引き起こした行動の変化量を同定しようとしました。
[photo by Tatiane Carrelli]