斉藤喜美子の「日本の保護犬事情に物申す!」その3:保護犬のトレーニング事情

インタビュー&写真:藤田りか子

高知県南国市にてドッグトレーナーかつ動物愛護行政ボランティアとして20年間保護犬と精力的に関わってきた斉藤喜美子さん。彼女に現場における保護犬事情について語ってもらうインタビュー・シリーズ、その3。前回からの続きだ。

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元野犬保護犬のトレーニング事情

藤田(以下F):欧米の保護犬と異なり、日本の保護犬には野犬がとても多いという印象があります。だからこそ、普通の家庭犬と比較した上での野犬の習性や彼らの考え方といった知識や情報がもっと広まるべきだと思うのです。彼らは知らない物、場所、知らない人への寛容度が普通の家庭犬よりもうんと低いし、警戒心・恐怖心が強い。要は普通の犬ができることを元野犬に期待してはいけない、という知識をもっと多くの人につけてもらいたいですね。なぜ、野犬の生態についての情報が一般の人々の間で広がってないのでしょうか?

斉藤さん(以下S):ええ、それ、不思議ですよね。なんか野犬の真実を話してはいけないような風潮があります。私がソーシャルメディアの保護犬のディスカッションをしているスレッドに「私、トレーナーですが、その方法でやってもこうなるだけですから、あまりよくない。だから別の方法が良くないですか」ってコメント入れると、多くの人によって揉み消されることがあります。その真実が伝わるのがいや、みたいな感じで。

F:なるほど野犬についての真実を広げたくない?理想化したいのですか?

S:というよりも昔ながらのトレーニングを提唱する人がいて、犬だから叩いたらうまくいくよ、などと情報を流す。咬み付いても叩いて蹴ったら従うもんだという昔の考え方は根強いです。以前、保健所に「この犬いらない」と戻してきた人がいました。何をしたの?と聞いたら、咬み付くから叩いて蹴ったら、余計に咬み付いた、と!

F:あらら!

S:それは、叩いて蹴ったりするから咬み付いたんじゃないんですか、と告げたら「いやいや、今まではそういう犬はいなかったよ。叩いて蹴ったら、みんな大人しくなった、と。「こいつだけおかしんだ」って言い出して。そういう人たちの話が保護犬のコミュニティの中でいまだに浸透しています。私が「トリーツつかってこう直すことできるよ」と指導しても、周りの人からの圧があって。そんなことしているから、咬まれるんだとか、と言われるそうで、新しい方法をつかえないでいる。

F:保護犬とか元野犬に、圧をかけてトレーニングをするという風潮が最近また復活したようなことを聞いたことあります。

S:ええ、強制訓練をする訓練士さんのところにいって、いい子になった犬っています。でも訓練士さんの元を離れた後はどうなったか?これ、多くの方が疑問に思うことです。そういうところに柴を預けたとある飼い主さんに連絡をもらったことがあります。今のところは特に問題もないそうですよ。

でも彼女の話を聞くにつれ、もともとその犬は問題がなかったのではないかと思い始めました。柴って最初の半年を過ぎて自我がでてくるとけっこう攻撃をしかけてきます。思春期がきて、モノを守りはじめて飼い主に咬む素振りを見せたり。だから、その方はそのまま思春期が過ぎ去るのを待っていればよかったんですよ。この犬、どのみち落ち着いていたのではないかと。

でも飼い主はさんはあわてて、十何箇所も訓練所を渡り歩いたそうです。各所でいろんなこと試したものだから、犬の攻撃性を余計悪化させたみたいです。叩いたり蹴ったり脅されるから、犬もパニックに陥って、仕方なく歯を向けていた、と。そうやってなんでもないことで攻撃的な犬になっていきました。ついには手がつけられなくなり、とうとう強制をウリにしているある訓練士さんのところへ。

この訓練士さんのところでその犬は歯を向けても意味がないことを理解しました。家に返され、思春期もその頃には終わっていて。実は、歯を使うほどの話でもなかったんだ、と犬が悟って落ち着いたというわけです。

F:思春期の頃に捨てられる犬が多いという統計も欧米ではでています。飼い主はもう少し待っていればよかったのにという話ですね。

斉藤さんへのインタビューはZOOMを通してスウェーデンー高知で行われた。インターネットって本当に便利!左が斉藤さん、右が筆者。

強制訓練に対する犬の反応はそれぞれ

S:強制訓練によって押さえ込み、封じ込みを受けたら、「歯を使うほどのことでもないんだ」とわかる犬もいれば、「歯をつかわないと!」と行動をもっと強化させる犬もいる。つまり、行動を止めるパターンと悪化させるパターンにわかれます。

知り合いのお客さんで、保護犬のシェパードを飼っている方がいまして。その犬はもともと虐待をうけていて攻撃性が強い子でした。そこである訓練士さんに訓練してもらい、落ち着いたんです。それで大丈夫だと思っていたら、なんと家族中が咬まれてしまった。そこで私に連絡がきました。それを聞いた時、前の訓練士さんが封じ込めをしていただけだと読みました。訓練士さんの元を離れ、たがが外れた状態になっていたのです。つまりその子の性格は穏やかになってよくなったわけじゃなかった。自分の意思を貫きたいときは歯を使う。嫌だったら歯を使う。

F:斉藤さんはそれをどう直したのですか?

S:飼い主さんに「家でこの子何をしているの?」と聞きました。すると、ほぼほぼクレートに隠れている、ということでしたね。クレートに隠れているぐらいなら、まだ全然大丈夫、見込みがあると思いました。そこで私は「クレートにずっといてもらって、誰もあなたに危害を加える意図はないよ、ってまずその子に経験してもらいましょう。そんな犬を餌で誘き寄せようとしても、慣れることはありません。野犬だと思って飼いましょうね」と言いました。すると、飼い主さん、それを聞いて「心が落ち着きました」と話してくれました。シェパードだから言うこと聞くんだと強く思い込んでいたようで。

そういう感覚が譲渡してもらう側にもあるし、譲渡する側にもある。出したら「まずくないか?」っていう危機感がない。そんな犬、私だって怖くて引き取りたくない。譲渡してもらった飼い主さんも「どうやって叱ったら直りますか?」という質問から始まっていましたし…。

こんなことが日常茶飯事に存在する現状で、一体いい状態の譲渡ってどれぐらいあるんだろう、と思っています。譲渡が悪いと言うつもりはないけれど、もらう側の認識も、渡す側の認識も非常に甘いのです。私はたまたまその人のそばにいたから、助けてあげることができましたが。さもなければ、これ、すごいことになっていたでしょう。

若犬の行動さえ知っていれば

F:県の小動物管理センターのお手伝いをするほかに、斉藤さんはご自分でもトレーナーとしてクライアントさんをもっている?

S:はい、プライベートレッスンをやっています。問題行動カウンセリングだと今、ほとんど柴ですね。そうはいっても、柴だからこその問題でもないんです。どちらかというと飼い主の考え方の問題といいますか、知識の欠如といいますか。

F:どんな相談が多いのですか?

S:「咬み」ですね、9割はそれです。若い犬が多く、それゆえに狩猟欲と甘噛みですね。葉っぱを追いかけてそのついでに飼い主さんも咬んじゃったとか。しかし1歳を過ぎた犬で咬む問題がある個体だと、思春期の頃におそらく手荒く扱われたんじゃないかな、と。

犬にも思春期が来ると行動が変わるよ、ということを知っていれば、問題行動にならなかったようなケースばかりなんです。逆にそういうのを知っている飼い主さんは余裕です。「先生、うちの子、ついにソファに登って場所を守り始めるようになりました!」とかレポートしてくれたり。そしたら私が「ソファにダンボール乗せておきなさい」などアドバイスをしてあげます。犬がそこに乗らなければ、降ろす必要もないわけで!そのうちおさまるから、と余裕で構えることができます。

若犬の行動が変わり、乱暴に扱ってひどくなるケースは多いんです。そういう時期があるということを知っていれば、いざというときに慌てなくて済む。でも多くの方は「そんなこと知らなかった」って。本にもそのような情報は出ているはずです。みなさん読んでいないのかしら…。

不思議なことに、人やソーシャルメディア、ネットの情報はみなさんよく聞いているんです。しかしネットの情報は間違っているものが多い。「あら、この方、いいお話しているじゃない」と興味を持って読み進めていくと、そのうち「上下関係をしっかりしなければ」と話が締め括られていたり。そんな情報を信じながら、ネット難民みたいになっちゃう人も。ついには「先生、私、下に見られてだめなんです」というような話をされる。上も下も関係ないですけどね、犬にとって。

F:ならば「犬曰く」読んでくださればいいのに!(笑)

S:ええ、私、勉強したいという人には、このサイトおすすめしています。他のネットの情報を集めるのはやめてここ読んでって!

F:あはは!うれしい〜。でも有料サイトですけど!

S:安いですよ。月500円でいっぱい記事が読める!

次回に続く

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斉藤喜美子プロフィール:

1968年5月28日生まれ23年前高知県南国市にある山地酪農の牧場に嫁ぎ、6人の子育てとドッグトレーナー、ペット専門学校の講師の他、高知県の動物愛護行政ボランティアや指導を務める。

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