毛色生成の中核をなすA遺伝子座、さらに解明が進む

文:尾形聡子


[photo by Steve Walker] 新たな分類、シェーデッドイエロー。

進化の過程で犬は、オオカミとは異なる犬独自の毛色やパターンを獲得してきました。毛色のもとになる2種類のメラニン色素生成に関わる遺伝子に変異が起こり、それが代々にわたって受け継がれてきたためです。オオカミにおいても同様に毛色にまつわる遺伝子の変異は起きているのですが、人為的な交配ができる犬とは異なり、その変異した遺伝子による表現型(見た目)が自然界で生きていくために相応しくなければ、自然に淘汰されていきます。

毛色生成に関わる遺伝子は種特有のものもあれば、さまざまな哺乳類に共通しているものもあります。犬について言えば、たとえば優性黒毛(K遺伝子座)のように犬で発生して広まった遺伝子変異があり、それが逆に犬からオオカミへと交雑によってもたらされているような場合や、グレート・デーンのハルクインのように犬種特有の遺伝子変異があることもあります。一方で、哺乳類の毛色発現にひろく共通して働いている遺伝子があり、そのひとつがASIP(Agouti Signaling Protein:アグーチシグナル伝達タンパク質)です。

ASIPはメラニン生成経路の上流に位置する遺伝子です。メラニン細胞(毛色の元になるメラニンを作る細胞)の細胞膜にある受容体(MC1R:E遺伝子座)にくっついたり離れたりすることで、フェオメラニン(黄〜赤褐色)が生成されたり、ユーメラニン(黒〜茶褐色)が生成されたりすることがわかっています。毛周期に従ってくっついたり離れたりする現象は「スイッチング」と呼ばれ、スイッチングが行われると1本の毛は「ユーメラニン=フェオメラニン=ユーメラニン」というバンド状の様相となります。

ただしこのスイッチングの現象は背中側のみで見られ、通常腹側では起こりません。腹側では基本的に常にASIPがメラニン細胞の受容体にくっついていると考えられており、マウスでは背中側と腹側とでASIPの発現を制御するプロモーターが異なることが示されています。結果、腹側の毛の着色はフェオメラニンのみとなり、背中側の色と比べて明るいものとなります。この色素分布は多くの哺乳類、そして魚類や鳥類などさまざまな動物に共通するもので、「カウンターシェーディング」と呼ばれる効果をもたらすと考えられています。

これまでのA遺伝子座

犬において、このASIP遺伝子が支配するA遺伝子座には4つの対立遺伝子(野生型を含む)があると

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