犬の「噛む」に関する大規模調査、初めて行われる

文:尾形聡子


[photo by OakleyOriginals]

「噛む」と「咬む」。この二つの漢字の使い分けをご存知ですか?

「噛む」は一般的に歯を合わせて物を食べたりかじったりするときに使います。人の場合「かむ」動作はたいてい「噛む」に含まれることになるのですが、牙のある犬には、食べ物を食べるときの「噛む」とは意味合いの異なる「咬む」があります。

「咬む」は相手を歯(牙)で傷つけるような場合に用いられ、たとえば犬の場合、人をかんで傷つけてしまうことを「咬傷事故」と言います。また、歯のかみ合わせた状態にも使われ、かみ合わせに異常があることを「不正咬合」と呼びますが、それは犬にも人にも使われる言葉です。むしろ、人の歯科専門分野では「噛む」ではなく「咬む」が使われることが多いそうです。

さて、散歩の道すがら「触ってもいいですか?」と聞かれることがありますが、中には不思議と「かみませんか?」と聞きながら触ろうとする人もいるものです。そんな時、この人は「咬みませんか?」と聞いているのか「噛みませんか?」なのか、どっちなのだろうと考えたことがあります。英語ならば、「噛む=chew」「咬む=bite」と異なる言葉のため理解に苦労しませんが、日本語の場合は同じ音のため意外と厄介なものです。

歯で相手を傷つける「咬む」は、野生動物を仕留める必要がない家庭犬において、恐怖や不安などが原因で発生する攻撃行動のパターンのひとつです。そのような、主に成犬の「咬む」についてはこれまで色々な記事で触れているので「咬む」でブログ内検索をして選んで読んでいただければと思います。一方で、子犬から思春期にかけての犬はとりわけ咬む(噛む)行動をする動物でもあります。どうして子犬は「かみたがる」のか、どうやって「かむ子犬に対処すればいいのか」については藤田りか子さんの「咬む子犬を怖いと思ったときに…、これ読んでね」を是非ともご一読ください。

成犬の問題行動として重視されるのは「咬む」方ではありますが、「噛む」も時と場合によっては問題行動と見なされることがあります。「噛む」背景には、そもそも「噛む」行動が足りていない場合をはじめ、運動不足によるストレス発散、退屈、留守番の際の分離不安行動などネガティブな要素があることも考えられ、犬の生活の質が問われかねない問題とも言えます。一般的に「噛み癖」と呼ばれるような状態が成犬になっても続いてしまっているケースがその例です。

ちなみに「噛み癖」は人にもあるものなのですが、癖でウッカリ噛むというよりは、どうやら別の理由もありそうです。人の噛み癖について悩んでいる方は「犬の飼い主心理学教室」でお馴染み、臨床心理士の北條美紀先生に個別相談いただくとして、今回は犬の「噛む=chew」行動について飼い主調査を行った研究を紹介しようと思います。

先ほど述べたように、犬の「噛む」行動にはネガティブ要素が関与する可能性があることから、ウィーン獣医大学の研究者らが「噛む」は犬の福祉に関与する大切な行動と考えた上で、飼い主の噛む素材の提供管理の詳細、それによる悪影響の経験があるかどうか、飼い主と犬との相互関係とに影響があるかなどを明らかにすることを目的として調査を行い、結果を『Applied Animal Behaviour Science』に発表しました。家庭犬の日常生活における「噛む」行動について大規模アンケート調査をした、世界で初めての研究です。

アンケートの結果は?

88の質問からなるオンラインアンケートに参加した飼い主1,439人の回答が解析対象とされました。回答者の92%が女性で平均年齢は39.5歳、そのうち約3分の1が初めて犬を飼った人でした。犬については1,990頭分の回答があり、平均年齢は4.7歳、純血種70%、ミックス26%、その他4%となっていました。また、参加者の85%が飼い犬を作業犬ではなく愛玩犬であると回答していました。

■噛む物を与えている飼い主の割合

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