文:北條美紀
[Photo by angel1238812]
職業柄なのか、よく質問をされる。先日も、クライアントであるXさんから、
「コロナで人出が少ないから桜を見るのに絶好のチャンスだと思うんです。でも、A公園がいいか、B公園がいいか決められなくて苦しいんです。考え出すと止まらないし、どっちを選んでも後悔しそうだし。北條さんはどう思います?」
と悲壮な表情で聞かれた。いやいや、週末は都知事から外出自粛要請が出ているし、日曜日は雪の予報だよと思ったものの、
「うーん、A公園もいいし、B公園も捨てがたいですね」
などと考えているふりをしていたら、
「北條さんならどっちに行きます?」
と駄目押しがきた。それでも、
「A公園は川沿いで橋からの眺めがいいし、B公園は桜の木が大きくて立派で…」
などと眉間にしわを寄せていると、
「決められずに苦しいって言ってるのに、なんで北條さんは答えてくれないんですか!」
と怒られてしまった。そして、2人同時に笑い出した。
[Photo by Toshiyuki IMAI]
Xさんと私の付き合いは長い。Xさんは「A公園、B公園どちらがいいか」という意見を私に求めているのではない。自ら言ったように「私の代わりに行き先を決めて、私の苦しみを軽くしろ」と要求しているのだ。これに対して私は、悩んだふりで、「私は、あなたの要求に応える気はありませんよ」と反応している。このようなやり取りの意味について、Xさんと私は何度も話し合っているので、最後は茶番のように噴き出したのだ。
言語行動理論では、Xさんの言動をマンド(要求言語行動)という。CommandからCo(共同する)部分を除いた造語である。「〇〇してください(要求)」「どうすればいい?(質問)」「走れ(命令)」などが代表例だ。私がXさんの要求に応えると、Xさんの苦しさは一時的に解消されるため(環境調整)、マンドは強化される。これを繰り返すと