心のサンシャイン

文と写真:藤田りか子

アシカの犬舎の名前は日本語に訳すと「しっぽ振り」という。この名前には、犬舎ブリーダーの一人であるSさんの理想とする犬のあるべき姿が託されている。彼女にとって犬とは

「気難しところはなく、明るく気立が良し。犬にも人に対しても感じがいい、そしてフレンドリーに尾が絶えずパタパタと振られている…」

という存在だ。それはまさに理想のラブラドール・レトリーバーの像でもあるだろう。例えば見張り癖が強い犬は絶えずあたりを警戒しているし、それだけに他犬に対しても不愉快な思いをさせることもある。Sさんに言わせれば

「そんな苦労をわざわざ遺伝的に犬に持ち込むのは、犬自身が社会で窮屈な思いをするだろうし、それを見るのは、私も辛い」

もちろん犬の理想像というのは人それぞれでよし(だから色々な犬種が存在する)。Sさんの犬への思いは、むしろ彼女のパーソナリティの反映でもありそうだ。Sさん自身、人との衝突を好まない平和主義者。明るく朗らか。多くの人に好かれている。テキパキと仕事をする様子もまさに作業系のラブラドール・レトリーバーのようである。

アシカとその兄弟姉妹全8匹は、見事犬舎の名前通りの犬となった。人を見れば、尾をパタパタと本当によく振る。というか、お尻ごと振られており、まるで泳いでいる魚のようだ。アシカの兄弟をもらっていったある男性は

「僕は狩猟のパートナーとしてラブラドールばかりこれまで7匹飼ってきたけれども、こんなに朗らかで気立てのいい子犬は初めてだ」

と話してくれた。それは私にとっても同様だ。今までに出会ったどんな子犬よりもコンタクトがいい。顔を絶えずこちらに向けて会話を始めようとする。そんな彼女と目が会うたびに、気持ちは明るくほんわかとなる。オキシトシン全開!まさに心のサンシャイン。ボーイフレンドのカッレはラッコを間違ってもベッドにあげないのだが、なんとアシカの場合は自分から布団に連れてきた。おかげでアシカとの初夜「子犬と一緒に寝てもいいよね〜?」と懇願する手間も省けた。何ともありがたい。

ブリーディングはアートとも言う。アシカ兄弟姉妹は、まさにSさんの理想とする「犬の朗らかさとは?」を理解する感性の結晶だ。適切な気質を見抜きそして父犬、母犬のそれぞれないところを補えるように交配する。アシカを見るにつけ

「世の中のもっと多くの人がアシカのような気質を目標にしてブリーディングすれば、犬にとっても人にとっても世の中住みやすくなるだろうに」

と身贔屓ながらにも思う。アシカはフィールド系のラブである。それゆえに強いコンタクト欲と社会性を元にした200年のブリーディング歴史を背後に控えている。最近の研究では、人と協調しやすい犬にはオキシトシンの感受性の違いがあるということでもある。つまり、フィールド系のラブラドール・レトリーバーのブリーダー達は知らずにこの感受性の強さを選択して繁殖してきたのかもしれない。

でもフィールド系とはいえ、この性格、家庭犬としても必要な気質ではないか。アシカの優しい朗らかな性格のおかげで、80歳近いカッレのお母さんですら、少しの距離なら彼女と一緒に散歩することができる。本来なら、やんちゃ盛りの6ヶ月の子犬(それも大型犬種)と散歩するのはそんなに簡単なことではないはずだ。

もちろんアシカが備えている「働きたい欲」は、普通に散歩するだけで満足、という家庭には向かないだろう。しかし、あのコンタクト欲はどんな家庭犬が持っていても絶対に損はない。作業系の犬のみならず、家庭犬のブリーディングだってもっと気質重視でいいはずだ。

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