オスであるということ

文と写真:アルシャー京子

オスである以上、他のオスとの関係は気になるもの。少しでも自分を強く大きく見せるため、自分の得意な技を使って立ち向かうなんて、いいじゃないか。未去勢のオス犬にはなかなか「草食系男子」なんていないのだ。

「メスは気分屋だけど状況に適応しやすく、オスはどちらかというとその状況での順位付けが気になる」「メスは性格が穏やかで、オスは攻撃性が強い」

果たしてこれは当たりか、それともただの先入観か?

一般に言われるこのような話は飼い主の経験を通しての言葉だから、これらを集めることで少なからず傾向が示されることにはなるだろう。でも、「必ずしも」ではないし、それでもやはりオスとメスには行動の差はある。この微妙な「性別の差」のニュアンス、「女の子は感情的で涙もろく、男の子のように理論的に考えることが出来ない」というのにも似ている。犬の心理もきっちりと一線を引くことが出来るほど簡単ではない。しかも、犬種によっても雌雄の行動の差に大小がある。

オスが若い時期に自由さを求めるのは「オスになる」チャンスを得るためであり、そのすべてがオスとしての修行である。オスが力で自分の強さを示そうとするのは生物学的に備わった自然行動のうち、決して後天的に学んだ「悪い行動」ではない。オスとして通るべき自然のプロセスなのだ。

オスは自分のボジションがとかく気になる。ポジションが不安定なオスはなにかにつけ上位を狙いたがり、しかし犬同士を常にポジション争いさせておくと大きな衝突も起こりやすくなるから、その限界を決めるのが飼い主であれば理想的。その際、オスにとって大事な「無条件の愛情」と「明確な境界線」そして「他と異なることへの理解」を持って、飼い主は「リーダーシップ」を発揮したいものだ。

そういえば、「犬はヒトの性別を区別して行動する」とはオーストリア・ウィーン大学の行動学者Kotrschal博士の研究報告。飼い主の性別により犬も態度が変わり、女性飼い主へのボディガード的な振る舞いに対し、男性飼い主へはいわゆる「仲間」的な行動をオスは見せるという。「男性訓練士やお父さんにはキビキビと従ううちの犬なのに、自分のときにはよそ見している」という心当たりのある女性飼い主の方、愛犬に試されていると思った方がいいだろう。

オオカミとイエイヌの群れ内での行動を比べると、オオカミは生涯一夫一婦であるのに対し、イエイヌでは決まったパートナーを作らない。イエイヌのメスは気に入らない相手から逃げればいいだけだけど、その分オスは多くのメスに自分の強さをよりアピールしなければならず、そのうちのひとつに縄張りを守る「吠え」がある、とドイツのフィールド行動学者Günter Blochは言う。

オスの持つ縄張り侵入者への厳しさと反応の強さは、これもメスへのアピールのうちで、自分の縄張りに近づいてきた侵入者に対しオスが吠えると、メスはそれを見て(聞いて)「いい仕事してイカすわね」となるのだそうだ。かといって犬の吠えの意味にはいろいろあるからオスだけが吠えるということではなく、個人的にはむしろ犬の心理の動きとしてただ面白いと思う。

また「正常な雄であれば、同じ品種の雌に噛み付くものはいない」とコンラート・ロレンツは自己の観察経験を著書『人イヌにあう』で書いている。メスはオスになにをしても許される存在で、例えメスが本気でオスを噛んだとしても、オスはそれに対してせいぜい服従的な姿勢を見せるだけ。ハナっからオスの攻撃対象にメスはなく、メスに噛み付くことはタブーであり、これが騎士道に通じることからまた「とくに心をひくイヌの習性」とロレンツは表現している。

飾り毛の豊さに加え、胸元の長めの毛にも象徴される「オスらしさ」。

オスはメスの気を引くために自分を威勢よく見せようとする。オスは通常メスよりも頭や胸板・体つき全体が大きく、長毛犬種なら毛足が長くて密度も高い。そして胸元と首にはさらにたてがみのような毛を纏い、この外見的な卓越性はオスのオスとしての能力の一つでもある。

そして多くのメスの気を引くために「自分の意見」をあちこちにばらまく傾向にあるのもオス。メスにはヒートのシーズン(発情期)があるけれど、オスは常にシーズン中といっていい。常に縄張りと競争相手のことが気になり、だから災害救助犬など特定の匂いを追う使役ならメスの方が仕事に集中しやすくてよいとの評判もでてくる。

最後にもう一言、「オスは不器用だけど、純粋」。

中にはメスでもオスのように縄張り中をマーキングする個体がいる。調査によるとそれはどうやら生まれる前の母体内で同胎オスの雄性ホルモン(テストステロン)に取り囲まれ、影響を受けたせいであるという。

犬を迎えたいと思ったとき、ある程度犬種を絞り込んだなら、あとは「オス/メスどちらの性別が良いか」なんて、結局のところは自分の性格と犬の性格を実際にぶつけてフィーリングを読むしかない。先入観を持たず、まずはゆっくり時間をかけて犬の性格を感じてみよう。

(本記事はdog actuallyにて2011年2月15日に初出したものをそのまま公開しています)

【参考文献】
・WEDL, M., BAUER, B., DITTAMI, J., SCHÖBERL, I. & KOTRSCHAL, K. (2009): Effects of Personality and Sex on Behavioral Patterns in Human-Dog Dyads. Journal of Veterinary Behavior: Clinical Applications and Research, 4 (2), 88-89

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