犬の食欲が落ちたときに気をつけたいこと

文と写真:アルシャー京子

ヒトはなぜか動物がモリモリと食べている姿を見るのが好きらしい。動物園でもエサの時間は一大イベントだし、おそらく「食べる」という行動は命の源として見ている側の心理の奥底に何か響くものがあるのだろう。そして飼い主は往々にして愛犬が元気よく食餌を平らげる姿に幸せを感じるものだ。

ところが、「いつも元気に食べていた食餌を突然愛犬が食べなくなった」あるいは「食べる勢いが格段に下がってしまった」とき、もう飼い主にとっては一大事に近い。

こんなとき飼い主は「病気か?」とすぐに不安になるが、獣医学的に言うとこれはまだまだ食欲不振・食欲減退には当たらない。

獣医学で言うところの拒食(Anorexia)とは48時間以上に渡り犬が食べ物を口にしない、あるいは3日以上いつもの食餌量の半分以下しか食べなかったときを指す。

そもそも食欲に関わる満腹感や空腹感がお腹から来るのはほんの一部だけで、そのほとんどは脳ミソの「満腹中枢・空腹中枢」からのシグナルによる。

そこには胃袋の膨張感のほか、体全体にエネルギーや栄養が行き渡っているかも関わり、食欲に関してはさらに様々な要因が関連してくる。

食欲に影響する要因とは?

例えば精神的・肉体的なストレス、例えば不安感、あるいは痛みなどは犬でも(ヒトと同じように)胃袋に影響し、また急激な気温の上昇、傷んだフードや食材、もしくは鼻炎などで臭いが充分に嗅げないときなどいずれも食欲の低下に作用する(後半の原因は飼い主が気づきにくい)。

さらには頭部の怪我や損傷により満腹中枢や空腹中枢に影響があったときにも、食欲低下・食餌の拒否が見られたり、その逆に異常なほどの食欲を見せることがある。

もちろん食欲は健康のバロメーターでもあるから、感染症に罹って熱があるときや胃腸疾患、心疾患、腎・肝臓疾患、怪我や中毒、そして腫瘍形成のときなど食欲は大事なシグナルとして受け取られる。特に小型高齢犬の場合は奥歯に大量に溜まった歯石によって歯根が炎症を起こし、食べたくても食べられない状態であることも多いから口腔内のチェックは普段から忘れずにしたい。

[Photo by Ben Robinson]

食べたくない?それとも食べたいんだけど食べれない?フードに対し興味を示し食べようとするものの、何らかの原因により食べるにこぎつけないことを擬似拒食(Pseudoanorexia)という。歯石による歯と歯肉の炎症を含む口腔内・顎の炎症・怪我・疾患や嚥下障害、咬噛筋肉の麻痺などが多くの場合原因として挙げられる。

ただ、食欲の低下は症状としてはとても一般的過ぎてそれだけでは原因の特定はできない。上記のように数日に渡り著しく食欲が低下している場合には、すぐにでも詳しい検査が必要である。原因が判明し、適切な処置が済めばまた食欲は戻ってくる。

仔犬の食欲低下には気をつけて

成犬ならば2-3日の絶食はそれほど悪くはないが、成長期の子犬や若い犬ではそれが将来に影響する場合も多く、事が急がれる。犬が若ければ若いほど拒食によって栄養不足に陥りやすく、たった半日遅れただけでも生死に関わる事だってあるのだ。また栄養の不足やアンバランスが長く続くと成長障害も引き起こし、そうなるともう取り返しが付かないことが多い。

でも思春期に食欲が落ちるのは普通

仔犬が思春期に入り体の成長がそれほど著しくなくなったとき、この頃になるともう小さな仔犬時代ほどの栄養やエネルギー量を体が必要としないことから、だんだんと食べる量が少なくなってくる犬が多い。あるいは思春期により気がそぞろで、食べるどころではないというそぶりを見せることもある。これらは至って正常なことで、決して病気ではない。

そして栄養価が高く嗜好性の高い仔犬用フードから普通の成犬用フードに切り替えると、多くの犬にとってはつまらないと感じるのか、食欲が落ちることも多い。だからといっていつまでもお子様ランチを食べていては困るのだ。

しかしそれに気付かない飼い主が陥りがちなのは「愛犬がもっと食べる気になるように」とこれまでのフードに美味しそうなトッピングをしてしまったり、あるいは別のフードに変えてみたりということ。

どうぞお気をつけあそばせ、犬には予想外の棚からぼた餅であるこの変化、「食べないで待っていたらいいものが出てきた」とすぐに犬は学習するのである。おまけに目新しいものを好んで食べたら飼い主が喜んだ、と来てしまってはもうなかなか元の食餌には戻せない。犬の思う壺である。

また季節の変わり目にも食欲に変化が起りやすいため、同じような現象に陥りやすい。

その際はどうぞ覚悟してお取り組みいただきたい。

(本記事はdog actuallyにて2009年4月17日に初出したものをそのまま公開しています)

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