知る人ぞ知る、こんなスポーツドッグたち

文:藤田りか子

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ドッグスポーツの犬とくれば、ボーダー・コリーやラブラドール・レトリーバーが世界的に人気である。玄人のあなたであれば、ケルピー、ベルジアン・シェパード(マリノアやタービュレンなど)もスポーツ系犬種として気になる存在だろう。だが、世界広し。他にもまだまだ知られざるスポーツ系犬種は存在する。そんな犬種4種をここでピックアップしてみたい。なんと意外!みなさんがよく知っているあの犬種も入っていますぞ。

ノヴァ・スコシア・ダック・トーリング・レトリーバー


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レトリバー界の最小犬、ノヴァ・スコシア・ダック・トーリング・レトリーバー。同じレトリーバー種といえ、ラブやゴールデンにはないプラスアルファの個性が光る。ボーダー・コリーを彷彿とさせる身軽さ、すばしっこさ。

ダック・トーリングと名前が示すように「カモを誘き出す」というハンティングのお膳立てを仕組んでくれるのが犬種特徴。ダンスにも似た華麗な身のこなしでカモの好奇心をくすぐるスゴ技の持ち主だ。というわけで、ノヴァ・スコシア・ダック・トーリング・レトリーバーのスポーツにおけるパフォーマンスの特徴は、遊び心とハンドラーの為に作業を忠実にこなすという真剣真面目度がちょうどいい感じでブレンドされているところ。ウーン、なんか素敵。

欧米におけるレトリーバーのためのガンドッグ競技会はラブの独壇場であるが、敢えてノバ・スコシアを連れてくる愛好家もいる。あの反応の早さと、コマンドへの忠実心がやはりいいと言う。全速力で走っていても「止まれ!」の合図がでれば、ピタリとその場に凍てつく感じだ。そう、ボーダー・コリー風。

ノヴァ・スコシア・ダック・トーリング・レトリーバーとならガンドッグ競技のみならずアジリティや、フライボールだって十分楽しめる。ドッグダンスにもぴったり。ひとつのスポーツだけでは飽き足らない人には理想の相棒となるだろう。もちろんあの速さとエネルギーについていける自信があれば、だが。

ポーチュギース・ウォーター・ドッグ


F[Photo by Rikako Fujita]

レトリーバー種の祖先の一つではないかと考えられているポーチュギース・ウォーター・ドッグ。その昔故郷のポルトガルでは漁師といっしょに沖に出て、船から落ちた魚を回収、あるいは無線がなかった時代ゆえに、船と船との間のメッセンジャーをこなしていた。彼らの歴史的特性を活かし、かつ残すためにこの犬種だけのウォータートライアルという競技が原産国ポルトガルにはある。

ウォータートライアルといえば、水難救助競技を思い起こす方もいるだろう。しかしポーチュギース・ウォータードッグによるトライアルには、人を助けるといった救難科目は含まれていない。この犬種がどんな風に昔漁師たちを助けていたか、その技のひとつひとつがテスト科目になっている。ちょっと他にはないユニークなスポーツだ。

ポーチュギース・ウォーター・ドッグのお尻は部分的に刈られている。この犬種のトレードマークともいうべき特徴だが、これは泳ぐ際、毛によって体がプカプカ浮いてスピードが落ちるのを防ぐためのトリミング。それだけこの犬種のスポーツには、泳力に重点がおかれる。物品回収のテストもあるが、そこでもいかに速く泳ぎ戻ってこれるのかが審査される。

しかし本犬種の一番の輝く部分は彼らのダイビング技だろう。ウォータートライアルにはその技能をチェックする科目もある。 船から水中に落ちた魚を拾うというのが起源だ。本当に水の中にすっぽり頭から潜っていく。まるで鵜のような犬である。

ビズラ


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スピード、スタイル、パーフェクション。HPR系のガンドッグとしてのこれら3つの資質がすべて揃うハンサム犬種、ハンガリーの猟犬、ビズラ。HPR系とは、ドイツのワイマラナーに代表されるように、ハンティング(Hunting)ポインティング(Pointing)と回収(Retrieving)といった狩猟における技をすべてこなす犬種に与えられたグループ名である。

レトリーブの才が備わっている犬は、飼い主にとってはドッグスポーツの幅をうんと広げてくれるものだ。フリスビーで遊ぶことができるし、レトリーブそのものをスポーツにして楽しむことができる。ビズラは他のガンドッグに比べると、精神的にマイルドで訓練しやすい。回収に限らず、彼らとならいろんなスポーツを楽しめる。ただし、エネルギーレベルが高い。よって初心者には向かないので気をつけて。

バーニーズ・マウンテン・ドッグ

[Photo by  AnnCatrin Uppfeldt]

ドッグスポーツはスリムでキビキビしている犬だけの特権ではない。大型犬バーニーズ・マウンテン・ドッグにだって、彼らならではの歴史的作業が存在していたのをご存知だろうか。ミルク缶を積んだ荷車を引っ張りスイスの酪農家を助けていた。だてに体がでかいわけではない(記事冒頭の写真を参考に)。

残念ながら現在では犬がミルク運び作業に使われることはない。その酪農文化遺産ともいうべき、バーニーズの荷車引き能力をなんとか後世に残しかつ活かせないか。そこでこの犬種を愛してやまない愛好家たちによって「荷車引き競技会」というスポーツが作られた。

スポーツの特徴は、競技の始めから終わりまで文字どおり荷車を引くということ。しかしただ引っぱるだけではない。また重量レースの要素は全くない。ハンドラーのコマンドにきちんと従う「服従」という部分がスポーツとなる。よって犬は止まる、右、左、発進、の合図を理解しなければならないのだ。

バーニーズといえばマイペースな犬と思われがちだが、とーんでもない!筆者は実際に荷車引き競技会を観戦したことがあるのだが、アイコンタクトばっちり、飼い主と素晴らしい協調性を持って作業に臨んでいた。バーニーズも作業を遂行するというチャレンジをすごく面白がっていた。もちろんその楽しさに気づかせてあげるのは飼い主のトレーニング技の見せ所でもあるだろう。