バクテリアと犬 (1)

文と写真:アルシャー京子

ヒトも動物もけして一人ぼっちで生きているわけではない。いや、生きては行けないと言った方がいい。

これ、犬も一緒。さらにはミクロの世界も一緒。

皮膚の表面を顕微鏡でズームアップして見てみると、そこには一面にバクテリア(細菌類)がびっちりと生息している。丸いのや細長いの、大きいの、小さいのといろいろなのが所狭しと乗っかっている。実はこれが外部から体を守るガードの第一線なのである。

「バクテリアなんて気持ち悪い!汚い!」なんていわないで。彼らがいなければ犬の体もヒトの体も文字通り「丸裸」で、極めて無防備な状態にさらされてしまうのだから。

つまり私たちの目の前にいる愛犬もよくよく見れば「愛犬+バクテリア」という存在なのだ。

常在菌とは?

体表に生息する細菌類のことを一般に「常在菌」といい、皮膚表面につくものを外部常在菌、口腔や腸内に生息するものを内部常在菌という。腸内細菌はもちろん後者。

腸内はいわゆるダイナミックな細菌のエコロジー・システム。生まれたときは誰もが無菌状態であるが、母乳を飲み離乳をする頃にはすでに環境内の菌種バランスが決まるという。菌の数は年齢と共に増えてゆく。

母乳を長く飲み、自然な離乳時期を過ぎて育った犬の腸内には乳酸菌(ビフィズス菌やラクトバシルスなど)が多く安定して住む。腸内は乳酸菌が作り出す乳酸で弱酸性となり、この pH がいわゆる病原菌にとって居心地の悪い環境であることから、体を守る役目を果たすのだ。

一方、母犬から早期に離され、人工乳を与えられ早期の離乳をされた犬では乳酸菌が充分に腸内を制覇しないまま母乳以外の食餌が取り込まれるので、それに伴い腸内細菌のバランスが変わってくる。仔犬にとっての食餌はただ単に栄養を取り込むためのものだけの意味ではなく、安定した腸内細菌のバランスを保ち体を保護することにも繋がるのだ。こういったことも仔犬を早期に母犬から引き離すべきではない理由のひとつである。

[Photo by Tony Alter]

乳酸菌の宝庫、ヨーグルト。

善玉菌と悪玉菌

よく耳にする名前「善玉菌」と「悪玉菌」。腸内での善玉菌とは取り込まれた食物の消化・吸収を助けビタミン類を作り出し何かと体にとって都合の良い存在のことで、悪玉菌とは体に有害な物質・毒物を作り出し大量に増えてしまうと疾患を引き起こす存在のことである。

それならば善玉菌だけを体に住まわせればいいかというと実はそうじゃない。例え善玉菌でも同じ菌種ばかりが増えすぎると環境が偏り不都合が生じる。そのまた逆でいくら悪玉菌とはいえ、数が少なければその病原性を発しようにも勢力が足らず恐れるには及ばない。

腸内細菌はこれら善玉菌と悪玉菌が混ざり合った状態で構成されるのが自然である。善玉菌に負けじと少量の悪玉菌は毒を吐き生存領域を確保しようとし、悪玉菌に増える隙間を与えないように善玉菌は数を増やして攻める。こうして異菌種同士は戦々恐々としながらも平衡を保ち合うのだ。

ところがこの異菌種同士の平衡も、何らかの理由により崩れてしまう。例えば善玉菌が好まないような食材を用いると善玉菌の活力が落ちその隙を狙って悪玉菌が増えてしまったり、あるいは大量の悪玉菌に汚染した食餌によって善玉菌は駆逐され、いとも簡単に平衡は崩れてしまうのである。

ああ、腸内バランスは一日にしてならず...

(本記事はdog actuallyにて2009年5月15日に初出したものをそのまま公開しています)

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