かゆい! 犬のアトピー性アレルギー (2)

文と写真:アルシャー京子

【Photo by Thomas Hawk

愛犬が例えアレルギーを持っていても、引き金となるアレルゲンが外部寄生虫あるいは食材によるものであればそれらを排除すればいい、季節的なものならばその時期だけでも若干の薬をうまく使い何とか対処することが可能だ。

しかしアレルギーの中でも引き金となるアレルゲンを排除することが難しいとされるアトピー性アレルギー。いくら家の中を徹底的に掃除しても無駄、結局はアトピー体質とうまく付き合ってゆくしかないのである。そう、私自身が30年間付き合ってきたように。

アトピー治療には4つの柱がある。

  • アレルゲンとの接触を避ける
  • 炎症を抑えるための薬の投与
  • 特定アレルゲンを用いた免疫治療(脱感作療法)

そして不飽和脂肪酸の摂取

皮膚を清潔にするのは大事だが、洗浄後に皮膚を乾燥させるタイプのシャンプーはNG。
皮膚が乾燥すると細胞は壊れやすく、そこから雑菌が皮膚内に進入し二次感染を引き起こすと事態はさらに悪化する。

なので、慎重なシャンプー選びは必須。製薬メーカーからアレルギー用に出されたものも多いが、自然な素材を使ったシャンプーならばティーツリーオイルの入ったものでは抗菌作用があるので皮膚を清潔に保ちかつ清涼効果により火照りを抑えてくれる。

そして何よりも体の内側からのサポートを忘れてはいけない。そうだ、いくら炎症を薬で抑えたところで、それが長期に及ぶとやはり副作用の方も心配になる。

90年代には獣医学でも体内の炎症機序に注目し不飽和脂肪酸を用いた皮膚炎治療の研究が幾度となく行われた。その中でも Wander博士とその研究チームは炎症に対する不飽和脂肪酸のオメガ3とオメガ6の比率に決定的な効果を発見したのだった。

オメガ3ってみんなどこかで聞いたことあるはず。オメガ3は不飽和脂肪酸のなかでも DHA や EPA など魚油に多く含まれているものを代表とし、オメガ6は通常家庭で多く食されている植物油に含まれているリノール酸などである。

ここでちょっとだけ小難しいお話を。

炎症にはプロスタグランジンE2(PGE2)と言う物質が関与する。この物質はオメガ6系のアラキドン酸から作られ、EPAによって抑制される。また EPA はさらに PGE3 と LTB5 と言う物質に変換され炎症を抑える働きをする。

しかも犬のアトピー性皮膚炎の場合、体内でアラキドン酸と EPA を合成することができるのできないのと論争がされている状況だ。

不飽和脂肪酸代謝の流れ。犬のアトピー性皮膚炎では酵素AとCの働きが悪いとかそうでないとか、ヒトのアトピー性皮膚炎では酵素Aの働きが悪いらしい。

ちなみにアレルギーのとき必ず投与されるのがステロイド剤。このステロイド剤は細胞膜に存在するアラキドン酸の遊離を阻害し、結果として炎症に作用する PGE2 などの生産を抑える。この作用からステロイド剤がアレルギー治療に使われているのだ。ということは同じ結果を引き出すことができる EPA の効果はますますもって見逃せないというもの。摂り過ぎても悪い効果がないことだけでも試してみる価値アリだ。

鮭に含まれる脂質の22%は飽和脂肪酸、43%が一価不飽和脂肪酸で35%が多価不飽和脂肪酸。そのうち18%が EPA で12%が DHA である。【Photo by Kirsi L-M

油の話

さて、ここで普段の食餌内容を振り返ってみよう。

オメガ6系と呼ばれる不飽和脂肪酸の代表はリノール酸、これはひまわり油やベニバナ油、コーン油など家庭で調理油・サラダ油として使われているほか、動物由来の中性脂肪を構成する脂肪酸である。オリーブ油ではオメガ9系のオレイン酸が多く含まれるが製品によってはリノール酸が20%含まれるものもある。つまり普通の食餌ではオメガ6系の不飽和脂肪酸を自動的に採る事になっている。またリノール酸は体に不可欠な必須脂肪酸のひとつだからあまり量を減らさない方がいいだろう。

一方オメガ3系といえば魚油に含まれる DHA(ドコサヘキサエン酸) と EPA (エイコサペンタエン酸)。植物由来の油では EPA 以外のオメガ3系脂肪酸は見られるけれど、アレルギーにとって有効なものは残念ながらあまり見当たらない。というわけで EPA を多く摂りたいならやはり魚油あるいはサケやニシンといった魚を摂ることに尽きる。

手っ取り早く EPA の効果を試すならば市販のサプリメントを使うのもいいだろう。市場にはヒト用の DHA/EPA サプリメント商品のほか、犬の痴呆防止用にと DHA/EPA 商品がいくつか出ている。現実的に食餌に含まれる脂肪酸の量を厳密に計算するのは難しいが、おおまかに考えて手作り食の場合には加えている植物油の半分くらいをまずは目指してみよう。参考までに紹介するとベニバナ油なら約70%がリノール酸でできている。

ヒト用健康サプリメントではソフトカプセルタイプが手軽に入手可能で扱いも簡単。

なにはともあれ、Wander博士の研究によるとオメガ3とオメガ6の比率が1:1.4のとき PGE2 の生産が最も抑えられたという結果がでた他、魚油と月見草オイルを組み合わせることでさらに効果を挙げたという研究結果もあり、アレルギー対策はもはや薬のみではなくなった。

思い起こせば、私のアレルギーが酷く皮膚が乾燥・炎症を起こしたときクリームを塗るとかえって痒みが増し悪化したことが多くある。おそらくリノール酸入りだったのだろう、当時は知る由もなくただクリームをつけるのが嫌いになった。私の場合はあくまでも人間だから犬とはまた少し違った背景になるが、大人になり就職した会社で当時開発真っ最中だった DHA(魚油)を扱ったとき、すでに魚油はアレルギー症状を改善するということが少しずつ証明され始め、「なるほどこういう仕組みになっていたのか」と数年経った頃にうなづいたというわけだ。

とはいえ、ようやくうなづいた頃には私はすでに青魚がなかなか食べられない環境に住んでいた。そのうえ私のアレルギーが本当に改善したのは実は我が家に犬がやってきてからだった...きっとそういう運命だったのだろう。

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【参考文献】

The ratio of dietary (n-6) to (n-3) fatty acids influences immune system function, eicosanoid metabolism, lipid peroxidation and vitamin E status i... - PubMed - NCBI
J Nutr. 1997 Jun;127(6):1198-205. Research Support, Non-U.S. Gov't
Double‐blinded Crossover Study with Marine Oil Supplementation Containing High‐dose icosapentaenoic Acid for the Treatment of Canine Pruritic Skin Disease* - LOGAS - 1994 - Veterinary Dermatology - Wiley Online Library
Canine atopic disease: therapeutic use of an evening primrose oil and fish oil combination. - PubMed - NCBI
Vet Rec. 1995 Aug 12;137(7):169-70. Clinical Trial; Randomized Controlled Trial

(本記事はdog actuallyにて2009年10月9日に初出したものを一部修正して公開しています)