フィンランドの教育に学ぶ、愛犬との間の取り方

文と写真:藤田りか子

今から9年前の話だが、フィンランドの子供教育について本を著した。『知識ゼロからのフィンランド教育』(幻冬舎)。北欧人特有の犬との上手な付き合い方、適度な間の取り方についてもいいヒントとなる。

国民性と犬との付き合い方には、ある傾向が存在すると思うのだ。非難を承知、独断と偏見に基づいて言わせてもらえば、

  • 人情を大切にする国民は犬との付き合い方は概して下手
  • 人との社交である程度距離を置くクールな国民は概して犬の扱いが上手

後者に関しては、たとえば北欧フィンランドとかドイツとか…。

さらなる独断を許してくださるのなら、国が南に位置しているほど(南欧あたり)、社交が大事な文化で人情に厚い。しかしどうも野犬が多かったり、しつけがままなっていなかったり、ペットに関しては割合自由奔放。一方北にいくほど、個人主義でクールだがその分理性的。よって犬の飼い方についても、しっかりとマネジメントが行われている。しかし、一体なんだろう。この差は気候のせいなんだろうか?

実は今回北欧フィンランド教育について本を出をした。それを書くために取材をし、フィンランド人メンタリティやらを学ぶことができた。そして私が住むスウェーデンのそれと併せて考察し、以上のようなセオリーを出してみた次第だ。

フィンランドはヨーロッパでも有数の犬大国だ。きちんとしたブリーディングを行うからドッグショーでもすばらしい結果を出しているし、犬のトレーニングについてもピカイチ。アジリティの世界に有名なハンドラーが幾人もおり、セミナーのために来日したハンドラーもいる。そしてご存知、フィンランドは教育の面で今非常に注目を浴びている。子供たちの学力は世界一。不思議なのはフィンランドには塾もなければ、日本のようなヒステリックなまでの大学進学熱もない。規律正しいけれど、割合みんなのんびりしている。

アジリティやオビディエンス競技会では常に上位にランクするフィンランド。2008年のワールドドッグショーから。

日本と根本的にどう違うのか。フィンランドのいくつか家族や小学校、幼稚園を訪問してみたときに、あることに気がついた。彼らはいちいち子供に大きな声で指導しないということだ。日本ならさだめし、

「は~い、みなさん集まって!」「皆さん、お片づけしましょう!」

こんな風に声を張り上げるがフィンランドでは日常にあまり見られない。先生や両親は静かに子供に語りかける。よって子供がハイ!ハイ!と元気よく、あるいは子供っぽく、先生に返事をすることすら期待していない。そして誰かが悪いことをしても、大声でしかりつけるということすらあまりない。やはり諭すように語り掛ける。

なんでも静かに物事が進行する。まるで湖面を進むカヌーのよう。そこには全体主義ではなく、子供の自主性を重んじるという精神が横たわっている。そしてこれと同じ事を、北欧人は犬にも実行しているのだ。

たとえば、大げさな身振りをしない。静かに犬に接するし、語りかける。

「はいっ、オスワリィィィッ!」

じゃなくて、トーンを下げて

「オスワリ(プツとここで音声が切れる)」

犬にとっては、声の微妙なトーンだけで十分。人とちがって言語を理解するわけではないのだから、あとは雑音にすぎない。ところで「声張り上げ」をやっていると、本人の脈拍も上がる。それがストレスとして犬や子供に伝播するってことも可能だ。

フィンランドの小学校にて。いたずらをした子供が先生とお話。叱るよりもまず先生は「どうして?」と理由を聞く。そして「どうしたらよかったのだろうね?」と子供に考えせるような問い方を行う。先生は声を張り上げることはない。始終落ち着いた雰囲気の中で子供との対話は行われる。

子供に感情の距離の置き方もフィンランド人が得意とするところだ。愛情たっぷりに子供を甘やかすけれど、あるときはけじめをパッとつける。子供を調子にのらせず、時には相手を押し返すことすらある。こうして甘えのない独立心を培わせる。同時に子供はもっと大人を慕うようになる。「のべつ幕なし」与えられるご褒美ではないからこそ、ご褒美により価値が増し、それをもらうために子供はもっとがんばろうとする。

犬に接するときも、ご褒美を与えて思いっきり褒める。だが同時に上手く控えることも行う。日本でも犬は褒めて訓練しましょう!と声高に言われていることだ。にもかかわらずいまひとつこの方法をマスターしきれない人がいるのは、やさしさと厳しさの使い分けがうまくできていないからではないか。甘やかしたら甘やかしモードに心理的にどっぷりつかってしまうのが人情溢れる東洋人メンタリティーだと思う。ただしけじめがなくなるから犬は混乱するし、そもそもご褒美のありがたさすら忘れてしまう。そんなこんなでコミュニケーションは次第に欠落してゆくことに…。

気持ちが独立しておりけじめがはっきりしているから、クールな印象を与える北欧人。とにかくサービス精神旺盛、相手に気を使おうとするので、あたたかい印象を与える東洋人。

東洋マインドを卑下しているわけではない。世界に誇るべきものだと思う。ただし子供の創造性を伸ばす教育を考えるときとか、動物のような話す言語をもたない生き物と接するときは、どうも北欧メンタリティの方がうまくいくように思える。