うちの犬、もしかしてハイパーアクティブ?

文と写真:アルシャー京子

レトリーバーが見せるレトリーブに対する情熱は犬種として望まれたものだが、それも度が過ぎるとちょっと別の疑いが沸いてくる。

「さっき外で運動してきたのにまた家の中で飛び回っている」「トレーニングのときによそ見が多く落ち着きがない」「体を固定されるのを嫌う」「興奮しやすくクルクル回る」

こんな愛犬の行動に手を焼き悩んでいる飼い主の声を聞くことがある。犬の無駄吠え・要求吠えに関わる要因についてまずは飼い主自身の行動や犬の生活を見直すことが大事だが、もうひとつ、ちょっと頭において欲しい話がある。

犬にもあるADHD

「ADHD」、正式名称を「注意欠陥・多動性障害Attention Defecit/Hyperactivity Disorder)」といい脳障害を原因とする集中力散漫や落ち着きのない過剰な動き(ハイパーアクティブ)が症状としてあらわれる疾患である。静かにしていることが非常に苦手な子供たちの行動障害として近年認知された疾患で、躾うんぬんの話ではなく脳の機能に関係する立派な病気として現在受け入れられている。

ここ数年、この ADHD が犬にも現れるということが徐々に分かりはじめいろんな研究が進んでいるのだ。

室内を狂ったように駆け回る犬。この状況だけでは毎日の散歩・運動状況などがわからずただ ADHD と言い切ってしまうことは出来ない。

ただ「落ち着きがない」とか「動きが激しい」「元気があり余っている」と聞いただけですぐに ADHD と思い込むのはまだ早い。犬の行動を異常と決め付けるにはいくつかの要因を確かめなくては、犬は濡れ衣を着せられてしまうことになる。

ここで以前に拙記事「お呼ばれ犬への道 (1)」で紹介したコンラート・ローレンツ博士のタンクシステムをつかってこの先話をすすめることにしよう。

犬の体を『タンク』、体に湧き上がる欲求を『タンクに注がれる水』とし、タンクの下部に付いている栓から『飛び出る水の勢い』が犬の行動にあたる。水はある程度一定の速さでタンクに注がれ、溜まった水が少なければ栓を開けても飛び出す水は少ないが、もしも溜まった水が多ければ水の圧力により栓から飛び出す水の勢いは強い

欲求(①)がタンクに注がれても溜まった水位(②)が低ければ、大きな外部刺激(③)により弁(④)が開けられた時でも犬の反応(⑤)は小さい。

さて、これを元に犬の問題行動と過剰な行動(行動障害)の違いを見てみると...。

問題行動と行動障害の違い

問題行動においては犬はあくまでも正常行動を示しているのに対し飼い主はその正常行動を主観的に「望ましくない」とし問題視する。例えば要求吠えやリードを強く引っ張ること。問題行動ではタンクに注がれる欲求の速度は正常であるにもかかわらず、なかなか弁を開けてもらえないがためにタンク内に欲求はどんどん溜まり続け、結果として飛び出る勢いが強いということなのだ。

欲求(①)がタンクに注がれて溜まった水位(②)が高くなれば、小さな外部刺激(③)でも弁(④)が開けられ、水の圧力により犬の反応(⑤)は大きくなり問題行動として受け取られる。

一方、行動障害においては犬の行動は正常範囲ではない。ADHD では行動と行動とのインターバルが短く、目標に対し集中時間も短い。例えば「100万回ボール投げをしても疲れない・飽きない」「遊びのルールが保てない」「目標に集中できずあちこち飛び回る」「ご褒美をせかされる」「静かに待つことができない」など。これはタンクに注がれる欲求が著しく多く、それにしたがって欲求がタンクに溜まる速度も速く、弁から漏れていたり飛び出る勢いも強いということ。タンクに注がれる欲求が多い、この部分が脳の障害にあたる。

タンクに注がれる欲求(①)の量が多いため、水位(②)が高くなるのが早く、小さな外部刺激(③)で弁(④)が開けられ、水の圧力により犬の反応(⑤)は大きくなる。

なのに犬の行動障害は問題行動よりも問題視されないことがある。周りに迷惑をかけない限り放っとかれることが多く、しかし動物保護(QOL)の視点から見るとどちらも無視できない問題だ。

これはけっして犬が本来持ち合わせる能力の表れなどではなく、犬自身も脳の障害(過剰なインパルス)によって強制的に行動として表されているということなのだ。愛犬の本当の性格が障害によって隠されているといってもいい。

脳のインパルスコントロールがうまく行かないことはとくに猟犬や使役犬などの犬種で幼犬や2歳くらいまでの若い犬によく見られる。このハイパーな状態は使役犬としての能力を高める周辺環境への警戒心・注意心の土台としてとらえられ、このような性質をわざわざ選んでブリードしてきたのだ。

しかし愛犬を将来猟犬や使役犬として訓練することを考えない限り、エネルギー溢れる弾けるような若い時期が過ぎ徐々に落ち着きが出てきたとき飼い主はようやくホッと一息することだろう。そうでなければ...悩みはますます大きくなる。日々犬の体力を消耗させるためにあの手この手と振り回され、一抹の不安が頭をよぎる、「このハイパーな犬はこのまま一生ハイパーで終わってしまうのか?」と。

落ち着きは作られる

ADHD と診断された犬の治療はおもに投薬と行動トレーニングの両方が同時に行われる。ここでは診断以前に「もしかしてうちの犬、ADHD かも?」とちょっと疑わしく思うケースや「投薬治療まではしなくとも...」というケースに向けて日常でできる愛犬との訓練のコツを上げておこう。

  • 褒めるときの声のトーンに感情を入れない: 「いい子ね~」などと感情を込めた褒めは興奮を助長する方向に働くので、単純に「よしっ」あるいは単調な音(クリッカーや笛など)、小さなトリーツなどを褒めの合図に使うことで余計な興奮を避ける。
  • 普段から飼い主自身が静かな行動を心がける: 犬がどんなにはしゃいでも声をかけて止めさせたり気を引いたりせず、むしろ静かに行動を無視する方が犬は興奮しない。
  • 褒める間隔を短くする: 期待するご褒美をじらされると脳はもっと興奮するので、フラストレーションをためないように褒める間隔を短くする。
  • オスワリの状態でアイコンタクトを取らせる: 立ったままではすぐ次の行動に移ってしまうので、行動にメリハリをつけるトレーニングの一環として「オスワリ・アイコンタクト」を習慣づける。
  • リラックスの練習をする: 愛犬が横たわっている(でも寝入ってはいない)ときに静かに褒め、それが良い行動であることを覚えさせる。

これらのトレーニングはタンクに注ぎ込まれる欲求の量をコントロールすることにつながる。気長に一貫してトレーニングを心がけることにより症状は軽減するのだ。

なんでもない穏やかな状況を犬に望むとき、その状況に対してポジティブな印象を与えてやることを飼い主はどうも忘れがちだ。そして遊ぶ時間とリラックスする時間のコントラストをはっきりさせるため、遊びの時には音のなるおもちゃなどを使って遊び開始のシグナルを与えるのもいい。

そして犬にばかり理想行動を要求するのもいいけれど、ここで飼い主自身もう一度自分の行動を見つめなおすのも何より大事なことかもしれない。

(本記事はdog actuallyにて2009年11月24日に初出したものを一部修正して公開しています)

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