亜鉛と犬

文と写真:アルシャー京子

亜鉛と被毛の間には切っても切れない関係がある...。

亜鉛が不足すると皮膚の角質化が不完全となり不全角化症(パラケラトーシス)を引き起こすというのが獣医学での常識だが、逆に言うと角質代謝が異常を起こさない限り亜鉛の供給は無視されることが多い。

現実的にはパラケラトーシスを起こす以前に亜鉛不足は体に症状として現れるのに、その関連性を気にしてもらえないのはとても残念だ。

というわけで、今回は影の健康立役者「亜鉛」にスポットを当ててみた。

犬の食餌にカルシウムの供給がしつこいほど気にされる一方で、穀類と一緒に摂ったりカルシウムが供給過多になると亜鉛の吸収が阻害され供給不足に陥ることはあまり気にされていない。

犬の体が必要とする栄養価に対し細かく気を配ったドッグフードでは肉などの主原料に含まれる亜鉛のほかに亜鉛化合物を添加しその供給量を補っている。しかしフードに全部でどれだけの亜鉛が含まれているかはフードの成分分析を見なければわからないから、表示されている成分分析の項目に亜鉛が入っていなければ一般には知る術がない。そのうえドッグフードの中に亜鉛は入っているが、それが必要最低限量でしかない可能性も高い。おまけに一緒に配合されている穀類とカルシウム・その他のミネラルとの兼ね合いにより、配合されている亜鉛のうちどれだけが無事吸収されているかもわからない。

ぜーんぶまぜこぜ、ドッグフード。

たぶんもっと困るのは手作り食をしている場合。肉や穀類・野菜類を犬の体に合ったようにバランスよく組み合わせると、それらに含まれる亜鉛量は必要とされる量の半分程度でしかない。残り半分は...体が何とかやりくりできているならいいのだが。

ちなみに、犬の体が必要とする量は個体によって差があるため、「米国飼料検査官協会(Association Of American Feed Control Officials:AAFCO)ドイツ栄養生理学会(Gesellschaft für Ernährungsphysiologie:GfE)などが推奨する所要量(0.9mg/1kg体重/日)を摂っているからうちの犬には充分」、とは保障されないのが常。これらの数字はあくまでも犬全般に向けてのものだから、現実には個体差というものを考慮しなければならないのだ。

体の中で亜鉛は金属酵素(Metalloenzyme)として骨の中に多く存在し、タンパク質の四次構造と生物膜を安定させるという大事な働きをする。亜鉛が不足すると皮膚が硬くなる角化異常だけでなく、コラーゲン合成障害や精子形成障害ほか不妊症状など目に見えない影響が現れたり、さらには体内の必須不飽和脂肪酸合成と抗体生産にも影響することが知られている。

なんとも大事な、そしていろいろな働きを亜鉛は担っていたのだ。

たかが肉球、されど肉球。観察するといろんなことが見えてくる?

じゃあ、どのくらい摂れていれば充分か?ひとつの指標としては「肉球の柔らかさ」がある。亜鉛が充分量摂れている犬の肉球は角質が薄く柔らかい。「肉球の角質が硬いのは硬い地面をたくさん散歩しているから」と勝手に納得するのもいいが、硬い地面をたくさん歩く犬でも亜鉛の供給が充分なされていると肉球の表面は柔軟である。これがさらに進むと鼻の頭が硬くゴワついてくる。

フケが出やすい、毛艶が悪い、色素が抜けてきたなどというのも亜鉛不足が原因であることが多く、長毛犬種では特に換毛期に毛を構成するケラチンを作り出すために短毛犬種よりも亜鉛の必要量が多くなり、充分な供給が懸念される。

また傷の治りが悪いというのも顕著な症状のひとつといえるだろう。細胞の分裂と成長に大きく関わる亜鉛だから、不足するとなかなか傷がふさがらない。怪我の治療時や手術後には亜鉛を充分供給することは欠かせないのだ。

そしてなによりも抗体生産に関わることで免疫機能を高める亜鉛。怪我や換毛の度に補給してやらなければいつか不足が生じ免疫力が低下してしまうことにもなりかねない。

亜鉛サプリには錠剤タイプとカプセルタイプがある。できるだけ他のミネラルなどと一緒でないものを選ぼう。

ああ、そうだ。これらの話をただ犬の話として読むのもいいけれど、実は同じことはヒトでも言えるということを言っておこう。風邪の予防としての亜鉛は思ったよりも良い効果を上げてくれる。

「免疫力をアップさせたい」「いつまでも元気でいて欲しい」と愛犬に願い亜鉛を補給したいとき、ヒトならば亜鉛を多く含む食材である牡蠣を食べればよいだろうが、犬では残念ながらそうはいかない。牡蠣などの魚介類を食べつけている犬など滅多にいないから、量が過ぎるとまず消化不良を起こすのが普通だ。

牡蠣の他の食材で犬に向いているというとレバー。でもレバーですべての亜鉛が補えるわけでもないので、結局はサプリメントなどに頼るのが一番確実であるという結果になる。犬はヒトよりも亜鉛過剰症に鈍感なため、0.9mg/1kg体重を一日の目安にその半分量くらいは安心して毎日サプリで補える。また換毛にあわせてサプリを3-4ヶ月続け2ヶ月休むといったサイクルで補給をすることもいいだろう。

ヒトの調査では「子供の頃に充分量の亜鉛を供給することで集中力と記憶力が増し成績が伸びた」という報告があるが、犬にももしかしたら当てはまるのかも?なんてちょっと期待してみたい今日この頃である。

(本記事はdog actuallyにて2009年12月1日に初出したものをそのまま公開しています)

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