栄養バランスのポイントとは

文と写真:アルシャー京子

愛犬にいつまでも元気でいて欲しいと願う気持ちから、手作り食に切り替えたという飼い主は多いと思う。一方で、同じ気持ちを持っていても、栄養バランスなどのことを考えるとやはりいまひとつ手作り食は怖いと思っている飼い主も多いと思う。

さて、「栄養バランス」ってなんだろう?

アメリカの AFFCO やドイツの栄養学協会(GfE)などが推奨する栄養所要量は基準となる数字だが、犬に比べて比較的一律なヒトならまだしも、犬という多種多様極まりない動物に対して十把一絡げに「これ!」とひとつの数字を押し付けるというのはかなり暴力的と私は感じる。犬は工業規格製品ではないから、「完璧な栄養バランス」なんて現実的にはないに等しい。

基準の数字はあれど、犬の種類・性別・性格・年齢・運動・状況によって個体に適した「栄養バランス」は異なり、また犬の方にしてみれば常に一定量を求めるわけでなく、多少量が上下したところでそれこそが自然なのである。季節によって作物には旬があり、経済流通や保存技術が未熟だったその昔は私たち飼い主だって常に旬のものを中心に口にしてきたはずだ。技術が発展したお陰で冬のトマトや夏場の冷凍ミカンといったように、私達は好きなものを好きなときに選ぶことができ、ただ食卓の季節感を忘れかけているにすぎない。

ただ、気にしたいのは現代に生きる犬たちは飼い主から与えられるものしか得ることができない状態にあるということ。体の要求に合わせて自分で不足を補うことができず、あるものが過剰になったところで別のものに切り替えることができない。市販のフードにせよ手作りにせよ、体に合っていない食餌が長期で与えられることでバランスを崩してしまうことは多く、またこれまで体に合っていた食餌でも時間とともに犬の体が変化してゆくことでいつしか合わなくなってもくる。

そう、栄養バランスを摂るには、まず栄養バランスの崩れに気が付くことが第一。ここでアンバランスに陥りやすい栄養素についてちょっとみてみよう。

エネルギー

市販のフードで一番陥りやすいアンバランスといえばこれ。供給量のバランスは当然体重の変化によってよく分かる。これまでと同じ食餌でも犬が年を取るにつれ「いつもの量」は過剰になりやすく、また犬の食べっぷりを見るのが好きな飼い主の場合、犬の食欲をそそる「美味い食餌」をついうっかり与えすぎてしまったり、はたまた犬のおねだりに負ける日々が続くと気が付いたときに腰周りがふっくらどころか背中に花瓶が乗るほどの肥満状態に陥っていることもある。とはいえ、ふっくらした愛犬の姿をかわいいと思い続けている飼い主が多いのも事実で、しかしかわいらしさと健康は必ずしも一致するとは限らないこともよく頭においておきたい。

一方で授乳中の母犬やサイトハウンドなどのアスリートタイプの犬ではエネルギーの消耗が激しく、供給不足に陥ることも少なくない。

カルシウムとリン

その昔、犬が家庭の残飯を食べていた頃はこの二つの栄養素は不足気味で、その結果大型犬ではクル病が現れていた。現在ではむしろその逆、過去のトラウマからか、大型犬の急激な成長に栄養不足があってはならぬといわんばかりにドッグフードにはすでに充分量のカルシウムとリンが配合されている。にもかかわらず、さらに赤身肉がトッピングされるなんてことがよくある。あまり多くの赤身肉を加えるとリンとカルシウムのバランスが徐々に崩れてくるので要注意。じゃあ、バランスの取れた自然食材である骨ならいくらでも与えてよいかというと、それはまた別の問題。出てくるものの状態をよく見て決めよう。ミネラル剤や骨の給餌によってカルシウムの供給が過剰になると、他方で亜鉛が不足するためフケが出やすくなるので、それもひとつの目安となるだろう。

その他のミネラル類とビタミン

ちまちまとした細かい数字で所要量が表される鉄やヨウ素、セレンといった微量元素などは、市販のフードならある程度添加されているのが普通。手作りの場合赤身肉中心の食餌によって不足になりがちな栄養素だ。極端に言ってしまえば赤身肉にはタンパク質と水分しか含まれていないと思っていい。それでも世の中は赤身肉を「良質のタンパク質」と呼ぶから、聞く方は少し惑わされてしまう。たしかに「良質のタンパク質」ではあるが、良質のタンパク質が良質のミネラルやビタミンを含んでいるとは限らない。いろんな種類の野菜で補うのもいいけれど、微量元素とビタミンの宝庫といえばまずレバー。やはり摂取効率の面からみてレバーに適うものはないから、赤身肉を少し減らしてその分レバーを加えておくのがベターだ。

挙げればキリのない栄養素だが、バランスが崩れやすいといってもおおまかにはたったこれだけのものである。残りのものは自然な食材そのままを摂ることで、犬の体はヒトのように「一日30品目」なんて摂らなくても限られた食材の中である程度やりくりできるようになっている。全身赤身だけの獲物なんていないのだから、限られた食材に内蔵も加えてやることで計算ではじき出すよりもずっと栄養バランスは自然に近づくのだ。

中にはそもそもある程度の栄養バランスが取られている市販のフードにトッピングをしたり、あるいは手作り食と混ぜたりするのは大丈夫なのか?と考える人もいるだろう。答えはYesであり、Noである。

冒頭でも述べたとおり、犬の体は工業製品ではない。市販のフードだけでよい犬もいるし、混ぜてよしの犬もいる。それはフードの種類にもよるし、混ぜるものにもそれこそ気候にもよるといえるものだ(年齢別のフードはあっても季節別のフードがないのが個人的にはひとつ疑問でもある)。

犬の体の許容範囲から大幅に外れてしまわない限り、多少飼い主の気持ちを愛犬の食餌に反映させるのは全く構わないと私は思う。それもまた犬と飼い主の関係においては大事なポイントなのだから。そして関係が出来上がったうえで愛犬の体をよく観察し、より愛犬に合った栄養バランスを探って欲しい。

(本記事はdog actuallyにて2010年5月21日に初出したものをそのまま公開しています)

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