具体的な動物救助事例はもっとシェアされるべき

文:サニーカミヤ


消防の力で、タイヤにはまってしまった野良犬を救え!(出典:インディアナポリス市消防局のFB)

私の消防関係者ネットワークで知り得たことですが、実は日本でも日々、さまざまな動物救助が行われています。しかしアメリカではニュースとなるような事案であっても、日本ではできるだけ広報しないのが現状のようです。

その理由を消防関係者の方々に聞いてみると、命に危険のある動物を救出する行為を消防の装備を使って行ったことで「本来の業務なのか?」とか「動物を助けるために税金を払っているのではない」など、一部の市民からクレームが来る可能性があること、そして、メディア対応にも慣れていないからだそうです。

少し前になりますが、自衛隊の2017年のポスター「守りたい命がある」に見覚えがある方もいるのではないでしょうか?命に対しての本気度を1枚の写真から感じます。


(出典:自衛隊ホームページ)

「firefighter poster rescue dog」といったキーワードで検索をすると、インターネット上でたくさんの動物救助が見られるだけでなく、Facebook上の世界の消防署が発信しているページでも、さまざまな消防による動物救助事例やシーンが映像や画像で紹介されています。こういうメディアの使い方こそ、本気の消防広報だと思います。

たとえば、以下のインディアナポリス消防局の動物救助事例では、なんと4万人もの方々がこの動物救助事例について賞賛しています。

■Indiana Police Fire Department のFBページ
https://www.facebook.com/indianapolisfiredepartment/posts/1010759928942534

記事の概要を説明します。インディアナポリス消防署第5分署に、ジェシカという女性が車のタイアのリムに頭が挟まった状態のメスのピットブルを連れてきました。その雌犬の名前は「ジマ」で、近所でよく見かける1歳半の野良犬でした。


タイヤリムに頭が挟まってしまったジマ(出典:インディアナポリス市消防局のFB)

犬を連れて駆け込んだジェシカは、普段からこの犬にえさを与えており、帰宅後にえさを与えようとジマを探したところ、タイアリムに頭が挟まった状態のジマを見つけ、獣医などのアドバイスを受け、日頃からレスキューを行っている消防署に連れて行ったそうです。

駆け込んだ消防署では、交通事故などで使う小型の油圧や空気圧の切断・開放などの救助器具を持っていなかったため、ほかの署に応援要請し、2隊合同で犬の救助を行いました。


消防士たちの懸命な救助活動が開始された(出典:インディアナポリス市消防局のFB)

まず、石けんやサラダオイルを犬の首に付けて滑らせながら引き抜こうとしましたが引き抜けなかったため、車のブレーキペダルを切断する工具を使用して、リムにいくつかの大きな切れ目をつけ、リムの切れ目をさらに開くためにスプレッダーという油圧器具を使用しました。救助には1時間以上かかりましたが、無事に成功しています。


救出されたジマ(出典:インディアナポリス市消防局のFB)

また、ジェシカがジマの里親になり、ずっと一緒に暮らすことを消防士達に告げたところ、ジマを助けた消防士達が心から拍手でお祝いし、ジェシカとジマの幸せを祈りました。

この動物救助事例で消防士達が気をつけたことは次のような事柄でした。

  • 犬を励まし、がんばっていることを褒め続けた。
  • 恐怖による犬の心臓への負担を考え、連続的な救助は行わず、少しずつ、休憩しながら行った。
  • 音が出たり、振動の大きい救助器具を使わなかった。
  • 油圧器具も一箇所に力が掛かるとひずみにより、動物の首を絞めたり、簡単にはひずみを戻せないため、2つ以上の油圧器具をバランス良く使いながらタイアリムの解体を行った。
  • 石けん水やサラダオイルを犬の首の部分に付けて、滑りやすい状態にしてタイアリムから外そうとしたが抜けなかった。
  • サラダオイルを使ったため、熱や火花を発生しない救助器具を選択した。

日本でも、こういう貴重な動物救助事例の対応手順や使用資機材などを、関係者の許可を得て一般の人々に向けて公表することで、さまざまな救助器具の応用的な活用事例としても、その内容は確実に生かされていくと思います。

消防士の皆さん、どう思いますか?もし一般社会に公表するのが難しい場合でも、救助学会などでさまざまな動物救助事案なども発表されるべきだと感じます。動物救助事案として、それに特化した事例集を作ってもいいかもしれませんね。また、現代は消防の救助事案が少ない現状にもあり、これがもし人間の子どもだったときにどうするのか?その救助事例の参考にもなると思います。

そしてひいてはそのような取り組みが、助かる命を助ける活動へと繋がっていくのではないかと考えています。

本記事はリスク対策.comにて2017年8月10日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本国際動物救命救急協会代表理事。一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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