犬種の作出がもたらした弊害〜キャバリアにのしかかる有害な遺伝子変異

文:尾形聡子


[photo by CRYSTAL ROLFE]

犬に少し詳しい人なら、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルが心臓病に罹りやすいというのを聞いたことがあるのではないでしょうか?キャバリアに発症しやすい心臓病は広く弁膜症と呼ばれ、さまざまな原因によって心室と心房を隔てる弁が正常に動かなくなることで血流が悪くなったり逆流したりする病気です。

多くは弁の中でも左心房と左心室の間に位置する「僧帽弁」が変性する「僧帽弁粘液腫様変性(myxomatous mitral valve disease:MMVD)」で、先天性の心臓奇形などではなく、加齢により発症リスクは上がっていきます。キャバリアの場合、6〜7歳でおよそ半数が、11歳をすぎるとほぼ100%発症しているという2015年のデンマークの報告もあります。

日本においても、ペット保険会社のアニコムが毎年発表している「家庭どうぶつ白書2020」によれば、キャバリアの弁膜症の罹りやすさは他犬種に比べて約9倍ほどであるとの報告がされています。ただしこの病気はキャバリアだけなく、ダックスフンドやヨークシャー・テリアなど小型〜中型犬に発症する一般的な病気でもあります。

病気の発症原因はまだ十分に解明されていませんが、MMVDはキャバリアとダックスでは多因子遺伝(複数の遺伝的要因がひとつの形質に影響を与えること)する病気であると考えられています。これまでにキャバリアにおけるMMVDの早期発症に関係する遺伝子座が2つ同定されていますが、現時点では、それだけではキャバリアのMMVD発症率の高さのすべてを説明できるものではないと考えられています。

そもそもなぜ、犬は多くの遺伝的要因が関係する病気を発症してしまうのでしょうか。キャバリアのMMVDに関する最新研究を紹介する前に、まずはそれについて簡単に説明したいと思います。

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