文:サニーカミヤ
飼い主もいつ入院するかわからない。ペットについても万が一に備えておくことが必要だ。[photo from wikimedia]
ペットと住んでいる一人暮らしの飼い主である救急患者を搬送する場合、周りにペットの預け先の可能性がある身内もおらず、隣近所に知り合いもいない、あるいはペットシッターに頼んだり、掛かりつけ獣医へ預けるコストも飼い主が出せない経済状況において、救急隊員はどう判断するのだろうか?
これから、日本でも、上記のビデオのような救急事案が増えると思うが、飼い主とペットを一緒に病院まで搬送した例は日本にもあるのだろうか?ただ、一緒に病院まで搬送できたとしても、病院ではペットを飼い主の病室まで入れてくれないだろうし、病院にはペット同伴入院を受け入れたり、病院内でペットと会えるような場所を管理する施設も仕組みもないのが現状だと思う。
ペットを預かってくれる家族や友人が近くにいたり、動物管理(愛護)センターが業務時間中であれば、飼い主が戻るまで預かってくれるかもしれない。しかしペットにとっても飼い主にとっても、いつも一緒に毎日を過ごすのが当たり前の生活を送ってきたにもかかわらず、突然、引き離された生活を強いられることは耐えきれないほど悲しく、また、寂しい気持ちになると思う。
末期がんなどの患者をケアする「ホスピス・緩和ケア病棟」で、ペットのお見舞いを許可する病院が日本でも全国的に増えているようだが、一般的な入院では調べた範囲ではあるが、ペットの同伴入院は受け入れていないようだ。
いずれは入院保険等にオプションで、入院中にぺットをどこかに預ける費用や、ペットシッター代などが出るようになるのかもしれないが、ペットの里親探しサイトや団体のホームページに掲載されているペットが里親を探すことになった経緯や理由を読んでいると「飼い主が長期入院や療養することになったため、急遽、里親を募集します!」という内容がかなり多い。
1.ペット同伴入院やペット連れ面会の課題と対策
日本には7,629の有床病院があるが、各市町村に1つでも、ペット同伴入院やペット連れ面会ができる施設を持つ指定病院ができると、新たな保護や殺処分対象にならずにすむと思う。
■平成28年医療施設(動態)調査・病院報告の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/16/dl/gaikyo.pdf
動物が病院に入るなんて不衛生だと医学的な検査もせずに決めつけている方もいるかもしれないが、「ATPふき取り検査」を行うことで、ペット同伴入院やペット連れ面会を前提とした院内環境を実現するための入院環境検査、ME機器の清浄度チェック、入院施設衛生管理等が明確になり、洗浄評価として結果を数値で管理することができる。
ATPふき取り検査を導入することにより、アデノシン三リン酸(=ATP量)という、全ての動物、植物、微生物などの生命体中に存在する化学物質が判明し、ATPの数値を測定することで環境表面や汚れ(汚染度)を測定し、入院施設の環境清掃や衛生を保つことができる。
■医療現場向けATPふき取り検査(A3法)
http://biochemifa.kikkoman.co.jp/products/kit/atpamp/iryou/top.html
ただ衛生面がクリアできても看護師や医師などに吠えたり咬みつく恐れのある動物の場合もあろう。その際はペット同伴入院は難しいとしても、どこかの団体に預かってもらい、週に何度かでも入院している飼い主に会えるようなやペット連れ面会場所(ペットミーティングルーム)が病院にもできてもいいと思う。
2.いつも一緒に居るペットに会えないことで生じるストレス
私を含めて、ペットを「家族」ととらえている人たちは、ペットを家族として共に生活を豊かにし、限られた命あるものとして、心を交わし合う存在として認め合う関係を築いている。それゆえ、家族である伴侶動物と離れて過ごす入院生活は、闘病やけがの治療のつらさに悲しみや寂しさが心の痛みとなる時間となってしまう。
自分の愛するペットと離れて入院するのは、飼い主の病状も悪化する可能性もあると同時に、ペット側も飼い主がいない生活は、寂しさからのストレスで心の病になるかもしれない。
飼い主が自宅療養できる病気やけがであれば、誰かに散歩や生活のサポートを頼めるかもしれないが、入院しなければならなくなったとき、ペットをどうするべきだろうか?
飼い主はもちろん、医療関係者や病院関係者は環境省の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」の一般原則に従い、「終生飼養」を全うするためにも災害時のペット同伴避難と同様にペット同伴入院やペット連れ面会も具体的に対策できないだろうか?
また、総務省消防庁も一人暮らしで身寄りの無い救急患者とペットを一緒に同伴搬送する必要がある場合は、ペットを放置することのないよう、対策を考えておくべきではないだろうか?
■家庭動物等の飼養及び保管に関する基準
http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/laws/nt_h25_82.pdf
以下は基準の抜粋である。
1 家庭動物等の所有者又は占有者(以下「所有者等」という。)は、命あるものである家庭動物等の適正な飼養及び保管に責任を負う者として、動物の健康及び安全を保持しつつ、その生態、習性及び生理を理解し、愛情をもって家庭動物等を取り扱うとともに、その所有者は、家庭動物等をその命を終えるまで適切に飼養(以下「終生飼養」という。)するように努めること。
2 所有者等は、人と動物との共生に配慮しつつ、人の生命、身体又は財産を侵害し、 及び生活環境を害することがないよう責任をもって飼養及び保管に努めること。
3 家庭動物等を飼養しようとする者は、飼養に先立って、当該家庭動物等の生態、習性及び生理に関する知識の習得に努めるとともに、将来にわたる飼養の可能性について、住宅環境及び家族構成の変化や飼養する動物の寿命等も考慮に入れ、慎重に判断するなど、終生飼養の責務を果たす上で支障が生じないよう努めること。
3.医療者達の声
イギリスのベテラン看護師達のほとんどは、飼い主と一緒にペットが過ごせるよう、ペット同伴入院やペット連れ面会ができる仕組みを作るべきだという意見を述べている。
また、病院によってはペットが入ることができる場所や時間を決めて、段階的に会うことができたり、入院している飼い主にペットがお見舞いできるようなペットミーティングルームなどの設置が、病状快復へプラス効果を働かせることも述べている。
さらには、ペットのオーナーロス(飼い主不在)のストレス回避にも成るため、入院施設での飼養環境や条件が整えば、ペット同伴入院できるようにした方が患者にとってもペットにとってもお互いの心身に良いことは明らかだとコメントしている。英語だが下記の記事を参考にしてほしい。
■Pets should be allowed to visit their owners in hospital, senior nurses say
■How to Find Care for Your Pet While How to Find Care for Your Pet While HospitalizedHospitalized
■Why More Hospitals Are Letting Pets Visit Their Sick Owners
もちろん医者や看護師、入院患者の中に動物が苦手な人がいるかもしれないが、千葉県のペット飼養環境調査によると犬が嫌いな人は県民の1割で、動物アレルギーの人も県民の約1割である。基本的に動物が苦手な人はごくわずかではあるが、たとえ1割といえどもそれらの方々への仕組み的配慮、病室における動物の毛の清掃管理や鳴き声を出さない等のルール決めをすることで、ペット同伴入院は部分的にだが、実現できそうな気がする。
■千葉県ペット飼養環境調査
https://www.pref.chiba.lg.jp/eishi/pet/doubutsu/documents/shiyoujittai_kekka.pdf
難しいのは飼い主が多頭飼いしている場合だ。病室に何頭も連れてペット同伴入院やペット連れ面会するのは体力的なものや病気の状態で動物を管理することが困難と予測される。
■東京都における犬及び猫の飼育実態調査の概要(平成29年度)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kankyo/aigo/horeishiryou/siryou.files/29shiikujittai.pdf
4.ペットがもたらす医療的治療とは違った「心や気の効果」
アメリカのカリフォルニア州ロスアンゼルスこども病院では、病気療養中の子供達が院内のミーティングルームや手術前のベットの上で、トレーニングされたセラピードッグと心を通わすことで、次のような効果をもたらすことを病状が快復したデータにより確認している。
・手術前の不安な気持ちを勇気づけてくれる
・子供の病気に不安を持つ親へのストレス緩和
・医師や病院スタッフへの笑顔や気持ちの緩和
・痛みと闘う子供の心のケア
・血圧、心拍数、呼吸の正常化や痛みの緩和
・抗がん剤治療を行う患者の人生への励まし
・塞ぎがちな性格を持つ子供の心の開放
・病気の回復への期待と希望の向上
など。
日本でもYoutubeで「ファシリティードッグ」と検索するとたくさんのビデオを見ることができるが、病院で働く犬たちがもたらす上記のような非薬物的療法の成果は、複数の患者との絆を広め、年間に数千人の人々の心を癒やす貴重な存在になっている。
アメリカでは、病院によって、パーソナルペットビジテーション(Personal Pet Visitation)というペット同伴入院やペット連れ面会プログラムがあるが、どんな犬でも病室に入れるわけではなく、医師や病院スタッフによって、トイレをトイレシートにできること、吠えない・飛びつかない・咬みつかないなどのしつけマナー、犬の健康状態管理、犬の病歴やワクチン接種状況、掛かりつけ獣医の同意、厳しく審査されて、一定条件の範囲で許可している。
■アメリカ・動物介助療法(Animal Assisted Therapy)のポリシーについて(英語)
■医療介助犬と働く医療機関のプロトコルと環境設定について(英語)
もちろん、ペット同伴入院については、医療者にとってさまざまな課題が有るが、ただ、難しいと言って、まったく何もせずにいるのは本当に患者の病状快復を考えているとは思いにくい。
アメリカのように受け入れる条件を決めて、部分的にでも段階的にでも、入院している飼い主とペットが少しの時間でも一緒に居られるペット同伴入院やペット連れ面会の仕組みを作っていただきたいと思う。
(本記事はリスク対策.comにて2019年1月9日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています)
文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本防錆教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
◆ペットセーバー(ホームページ、Facebook)
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