文:尾形聡子
ココアっぽい毛色を持つフレンチ・ブルドッグ。 [photo by Carlos Varela]
毛色は犬の表現型を多様にする遺伝形質のひとつ。その中でも犬の毛色を黒から茶にする遺伝子が同定されたのは2002年、今からさかのぼること18年前のことです。それはチロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)という色素細胞に特異的に発現する、ユーメラニンの合成に必要な酵素です。TYRP1の変異遺伝子は劣性の形質で、ホモ接合(両親それぞれから変異型のTYRP1を受け継いでいる状態)した場合に毛色が黒ではなく茶になることがわかっています。
一般的なTYRP1の変異型(バリアント)には3タイプあり、多くの犬種においてはそれらのいずれかの組み合わせを持つことで茶の毛色となることが知られています。変異タイプと茶の色調の違いとの関連性についてはほかの動物種においてはあるものの、犬では確認されていません。数年前にオーストラリアン・シェパードとランカシャー・ヒーラーの茶の毛色についてはそれぞれにまた別のTYRP1のバリアントが同定されました。
つまり、犬全体で見ると、黒いユーメラニンを茶にする遺伝子変異はTYRP1において5つのバリアントが確認されているのですが、このたび、フレンチ・ブルドッグの茶の毛色がまったく別の遺伝子の変異