文:尾形聡子
[photo from WIKIMEDIA COMMONS]
犬はさまざまな毛色や柄のバラエティを持つ生物です。祖先のオオカミにも数種類の毛色はあるものの、犬と比べればごくわずか。なぜなら自然界の生き残り戦略に不利な毛色は淘汰されていくためです。一方で犬は人の手により選択繁殖が行われながら人と共に生きてきたため、さまざまな毛色があることがむしろプラスに働いてきたと考えられます。実際、10,000年以上前の犬にはすでに明るい毛色の犬が存在していた可能性が示されています。その時代の犬はオオカミと一目で違うとわかる毛色を持つことが生存率の上昇にもつながっていたためかもしれません。
21世紀に入ってからというもの、犬の毛色遺伝の基本的なメカニズムについてはかなり明らかになってきました。とはいえ科学的に説明しきれない細かなところは依然としてあるため、犬の毛色遺伝研究は細々ながらも引き続き行われています。そんな中、昨年には、毛色を白やクリームに薄める役割を持つ遺伝子がついに突き止められました。およそ60年前に仮説が立てられた「I遺伝子座」をつかさどる毛色遺伝子(MFSD12)が明らかにされたのです。
これまでI遺伝子座には2種類あるメラニンのうちのひとつ、赤~黄褐色のフェオメラニンの色調を薄める(白っぽくする)もしくは強める(赤っぽくする)働きをする対立遺伝子が存在すると考えられていました。しかし、発見されたMFSD12遺伝子の変異はフェオメラニンを