人をあてにしてはだめ、自分の命とペットは自分で守る、防災の基本です!

文:五十嵐廣幸


[photo from pixabay]

1.自助

「猫を飼っているので避難できなかった」

2019年10月14日、台風19号の災害で消防から救出された中学1年生が言った。また、ある芸能人は、ペットと一緒の避難を断られたことに、「悲しいよね…動物置いていくなんて選択肢ないな…アレルギー問題やいろんな問題があるから文句言えないけど」とツイートした。

これらの言葉に多くの人は共感をしたのだろうか? ペットの受け入れができない避難所や自治体を問題視する言葉をインターネットやテレビ番組で数多く目にした。しかし、私は「ペットとの同伴ができないから避難できなかった」というような飼い主の言葉と行動に強い違和感を覚えた。

ペットの安全は飼い主が率先して守らねばならない。特に今回の台風19号は勢力が強く、上陸前から「命を守るための早めの避難を」「直ちに命を守る行動を」と危険が迫り来ると繰り返し報道されていた。それなのに事前に避難することなく、いよいよ川の水が溢れ自宅が浸水してから大慌てで救助を求める人が大勢現れた。避難が簡単ではないことは十分に理解できる。しかし、ペットを飼うのであれば(普段から)災害が起こる前に同伴避難が許されている避難所を調べておくことは飼い主の責任のひとつだ。同伴避難ができる場所が近くにないならば、ペットが安全に過ごせる場所を確保しておくことも大切だ。

上記のツイートの発言やそこに寄せられたコメントから察すると、同行避難と同伴避難の定義を勘違いしている人が実に多いことが分かる。環境省発行の災害対策ガイドラインでは以下のように記されている。

「同行避難とは、避難行動を示す言葉であり、避難所でペットを人と同室で飼養管理することを意味するものではない。」

あなたの避難は何を意味するのかだろうか。是非ガイドラインを確認していただきたい。

オーストラリアでは

 私が住むオーストラリア・ビクトリア州で起こる災害の多くは、ブッシュファイヤーと呼ばれる山火事である。2008年に起きた山火事「ブラックサタデー」は約4,500km2 という広範囲が(東京都の面積は2,188km2 )消失。もはや近くの避難所に逃げるという選択肢はなかった。避難者のほとんどは友人宅やモーテル、キャンプ場に移動したと記憶している。毎年夏前になると災害に備えて自治体主催の「山火事からどうやって命を守るか」というレクチャーが開かれる。そして、山火事の危険性が高くなった場合には、消防局などから市民に向けてテレビやラジオで放送されるだけでなく、個人の携帯電話にも一斉に避難指示のメッセージが送信され、危険な地域に住む人たちは近くに火の手が延びる前に避難をする。

2014年の夏、自宅から近い場所で山火事が発生した。私はすぐにオフィスに連絡をして「山火事が発生したので犬を仕事場に連れて行きたい」と告げた。担当者は「早く連れてきなさい」と即答。非常事態に犬を職場に連れて行けることはとてもありがたい。犬が飼い主や信頼する人のそばにいられることは、彼らにとって何よりの安心であろう。この山火事をきっかけに、犬を職場に連れて行くだけでなく、デイケアや友人に預かってもらうという複数の選択肢を持つよう心がけた。そして犬がその環境に慣れるための練習も、今もなお欠かさないでいる。そうでなければ、愛犬を命の危険に晒してしまうからだ。

受け入れてくれる避難所がないからといって、刻々と危険が迫ってくるのに自宅に留まることを自分ならば絶対に選ばない。また誰かが助けてくれるだろうと待たずに、いち早くどこか安全な場所に移動する。自分の命は自分で守るという「自助」(*A)は防災の基本だ。飼い主は何があっても安全でいなければいけない。もしあなたが死んでしまったら、あなたの犬は保護施設で寂しい思いをしたり、保健所で殺処分になったりするかもしれない。だからこそ、愛犬のためにも絶対に自分の身を守らねばならないのだ。

*A「自助」とは、自分の命は自分で守るという意味で防災の基本。特に発災直後の行動は、自身の安全を確保するために避難すべきか、そのまま留まるべきかの判断に始まり自己が所有し、管理するペットの安全確保や飼養も自助が原則となる。


[photo by Hiroyuki Igarashi]
ブッシュファイヤーの可能性の高い地域にはこのような警告サインが設置されており、山火事の危険性が毎日更新される。

2.共助

避難所のペットの受け入れ拒否には大きな驚きはなかった。一部の飼い主とはいえ、普段の暮らしの中でリードを着けないで散歩したり、排泄物の適切な始末をしなかったり、ドッグカフェなどの店内で周囲の迷惑を気にせずに犬を走り回らせたりしているのであれば、それは当然の結果と言える。犬が嫌いな人や苦手な人は、そんな問題の原因である犬やマナーのない飼い主と、避難所で一緒に過ごしたくはないはずだ。それはごく当たり前の感情であり、私たち飼い主が導き出した答えのように感じる。

環境省の報告によれば、東日本大震災のときの避難所でのペットのトラブルでは、犬の鳴き声や臭いなどの苦情が最も多かった。その他、「避難所で犬が放し飼いにされ、寝ている避難者の周りを動き回っていた」、「ペットによる子供への危害が心配」、「ノミが発生した」など、飼い主による適正な飼育が行われていないことによるトラブルが多く見られた。また、「他の避難者とのバランスを考慮して貰えず、自分のペットへの過度の要望を通そうとする避難者がいた」など飼育マナーに関する意見も各地報告されている。

動物アレルギーの苦しみを知ること

動物アレルギーを持つ者にとって、避難所にいるペットの存在は強い恐怖であろう。災害時には十分な薬を手に入れることができなくなるかもしれないし、診察も簡単には受けられなくなるかもしれない。インターネットに書き込まれた避難所のペット受け入れ拒否に対して寄せられたコメントを読むと、ペットの飼い主は、動物アレルギー症状を軽く見る者が意外にも多くいるように感じた。おそらく動物アレルギーとは無縁の生活をしている人が多いためなのだろう。

花粉症で毎年大変な思いをする人は、自分のつらさを当てはめて考えてみると分かりやすいかもしれない。安心を求め、避難した先に沢山の花粉が舞い続けていたら…自分の寝ている横に花粉をたっぷりとつけた杉の木があったら…。ひとりひとりが何らかの方法で動物嫌いの人や動物アレルギーを持つ方の気持ちをイメージすれば、同伴避難は決してすべての人が望んでいるものではないと気付けるのではないだろうか。


[photo from pixabay]

避難所のペットの受け入れ拒否に対して、多くの飼い主は

  • ペットの命は尊い。
  • ペットは家族同然。
  • 同伴避難ができない結果、飼い主にも危険が及ぶ可能性が高い。

というようなことを、盾にするかのようにして同伴避難を強引に求めているようにも感じる。しかしペットを避難所に連れて行きたいと叫ぶ前に、日本の飼い主にはやるべきことがある。

避難所は人命を優先としたパブリックな場所である。特に体育館のような壁も仕切りもない避難所では、犬が他の人の迷惑にならないように努めるのは、飼い主の礼儀である。飼い主自身も避難者のひとりではあるが、どんな状況でも自分の犬を管理することは必要だ。そもそも普段から、カフェのテラス席などで犬がテーブルの下や椅子の横で静かに待てる日常生活を送っていなければ、日常とかけ離れた避難所で他人に迷惑をかけずに一緒に過ごせるはずがない。

避難所で、ペット受け入れによる他の避難者や他の犬への病気の感染を防ぐためには、飼い主はワクチン接種や、犬が迷子になった時のためのマイクロチップの装着など国が決めたことを守り、環境省のガイドラインに沿った避難所での過ごしかたをするべきだ。そうでなくても避難所は不安が多い場所だ。国が決めた犬のルールは守りたくないが、犬と一緒に避難所を使いたいと言うのは虫が良すぎるのではないか。

同伴避難の扉は強引に開けるものではない。普段の暮らしから、犬と飼い主の行動は不安のないものであり、犬から危害を加えられないと心から犬が嫌いな人や苦手な人に理解してもらう必要がある。そのために、犬の飼い主ひとりひとりが飼い主としての意識やモラルを高めて行動していかねばならない。そうなれば、自ずと同伴避難の受け皿は広がるはずだ。もちろん、次に襲ってくる災害に向けて、地域住民や自治体との同伴避難についてのディスカッションが必要であるのは言うまでもない。飼い主が地域住民との共存関係、調和を築くことこそ、災害からペットを守る「共助」(*B)の最初のステップになる。

*B「共助」とは、互いに力を合わせて助け合うこと。企業、地域の集まりなどのコミュニティのメンバーが共に助け合うこと。

【参考サイト】

環境省 人とペットの災害対策ガイドライン

環境省 災害、あなたとペットは大丈夫? 人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>

環境省 災害時におけるペットの救護対策ガイドライン

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文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ