「大型犬は檻の中で飼うこと」(!?)

文と写真:藤田りか子

グレート・デーン、超大型犬種であるゆえに畏怖の念を抱いてしまうのだろうか。日本のある地域では「檻飼い」を強いられている犬である。【Photo by Harlequinefawn

特定犬は檻で飼養してください

私がもしスウェーデンから犬連れで日本に再移住することになり、佐賀県や茨城県に住居を構えるとなると、ラッコを檻の中で飼うという生活を強いられるだろう。両県では特定犬というものを定めており、その犬たちはなんと「檻で飼育」されなければならないことになっている。まさか、と思うなかれ。日本には昭和初期で時代が停滞したような条例が未だに存在するのだ。

さて特定犬とは何?以下の佐賀県動物愛護および管理に関する条例を参考にされたい。茨城県のそれもほぼ同じものである。

平成20年(2008年)に定められた佐賀県動物の愛護及び管理に関する条例より。

ラッコはカーリーコーテッド・レトリーバーという犬種だが「危害を加えるおそれのある10犬種」の中には含まれていない。しかし特定犬として指定されている大型犬の定義、体高65cm以上、に見事にマッチする。彼の体高は70cm。カーリーコーテッド・レトリーバーを檻飼い??!!毎日寝起きを共にし、感情の深い繋がりを持つ我々。彼を檻に囲わなければならないのであれば、私もその柵の中で一緒に彼と生活をするだろう(ボーイフレンドは檻に入った私を嬉しがるかもしれないが)。レトリーバーは人との強い結びつきで生きてきた犬種、独りぼっちで犬舎飼いなど絶対にできない。

そして特定犬種として定められている犬たち、いや特定ではない犬たちも含めて、そう、犬すべてということになるのだが、彼らはそもそも孤独の飼養を受けるべき動物ではない。まず第一に群動物であり、とても強い社会性を持つ生き物だ。その部分はまったく考慮に入れないこの規則。愛護を推進しながら、犬の管理の決まりごととなると途端に福祉を無視しようとする。

ラッコはカーリーコーテッド・レトリーバー。レトリーバー界では一番背の高い犬種。茨城県と佐賀県ではこの犬ですら特定犬になる。

それにしても、サイズが大きくなるというだけで、犬は人間の理解を超えた未知なる「猛獣」として日本のお役人の目には映るのだろうか。特定犬に指定されているグレート・デーンやセント・バーナードなどは、家庭犬としてきちんとブリーディングを受けていれば、性質も穏やかで飼いやすい犬なのだが…。昨年茨城県の石岡市ででドーベルマンが逃げた。ドーベルマンは茨城県で特定犬に指定されている一種。茨城新聞では以下のように報道をしている。

かみつく恐れなどを考慮し、石岡署は防犯メールなどで「見掛けたらむやみに近づかないで」と注意喚起した

まさに猛獣扱いだ。ドーベルマンだから噛みつくといわんばかりだ。そもそも逃げだした犬に、犬種がなんであれむやみやたらに近づくものではない。

檻飼いのリスク

私が住むスウェーデンでも、外の犬舎で犬を飼う人はたまにいる。たいていは複数の犬を所持するブリーダーである(それでも犬舎飼いをするブリーダーは滅多にいないのだが)。が、このような外飼いにおいても、犬の福祉を保証すべく保護法が存在する。たとえば外飼いの犬は少なくとも1日1回は犬舎から出て外で用を足すべし、という規則。つまり散歩に連れ出せ、ということである。そして必ず人とコンタクトを1日1回は最低とること、とも記されている。のみならず犬の大きさ、頭数によって犬舎の大きさ、運動場の大きさも規定されている。日本には、このような犬のウェルフェアを重んじる決め事は愛護法に記されていない。茨城県や佐賀県の条例についてもしかりである。

茨城県のホームページより。茨城県が出している特定犬についてのしおりには、理想的な犬舎について一応図は掲載されているものの、適正な大きさについては何も示されていない。

特定犬として指定されている犬種を見ればわかるように、多くが防衛心の強い番犬気質を持つ犬たちだ。土佐犬や秋田犬、ドーベルマンなど。このような犬たちが福祉も保証されずにただ檻飼いを強いられた際どうなることだろう。欧米にも「特定危険犬種条例」がいくつかの国に存在する。散歩時のマズルの装着などを義務としているが、いくらなんでも檻飼いは推奨されていない。寧ろ外飼いでより危険な犬にしてしまう可能性もある。刺激に欠け、社会性はなくなり、警戒心も強くなる。大げさな言い方をすれば、飼い主次第では突発的で攻撃的で扱うのが難しい、ハンデを負う犬にしてしまうかもしれない。となれば、犬にとっては悲劇でもある。

いずれの犬もきちんとしたブリーディングを受け、真面目な飼い主によって飼われていれば、大抵の場合社会で問題を起こさず平和に人と共存できるものだ。にもかかわらず犬のサイズだけで無差別に檻の生活を強いるとは、動物への知識があまりにもお粗末すぎる。もっとも欧米の「特定危険犬種条例」も今となっては、あまり効果がないと批判もされている。というのも、犬ではなくブリーディング、飼い方、育て方に根本的な問題が潜んでいるからだ。ゴールデン・レトリーバーだって管理の仕方、飼い方次第では殺人犬になり得る。ちなみにスウェーデンはヨーロッパに珍しく特定危険犬種条例を設けていない国のひとつ。犬種で制御できるということを元から信じていなかったからだ。そのかわり飼い主の管理を徹底すべく、すべての犬にマイクロチップを施し飼い主登録することが2001年に法律で定められた。

日本の犬飼いは係留という前提からか?

【Photo by .sanden.

日本の犬の管理についての条例を読み進めていくと、どうやら犬というのはそもそも「係留して飼う」というのがデフォルトであることが理解できた。茨城県のウェブサイトの「犬を飼うときは」に以下のように記されていた。

飼い犬は県条例でつないで飼うよう義務づけられています。

これが犬飼いの大前提であれば、大型犬は檻で飼養するという義務、もなるほど納得できる。繋がれている犬ぐらい、犬種、大きさを問わず、近づいて危険な動物はいない。私はスウェーデンでだって、繋がれている犬にはむやみに近づかない。鎖やリードで行動が制限されて逃げ場がない犬は、恐怖を感じた時に自分を防衛しようと人を咬むことがある。

とはいえ、茨城県のウェブサイトには繋がれている犬の危険性については何も記されていない。おまけに「特定犬の檻飼いの義務」ができた経緯は、「茨城県内で放たれていた大型犬による重大な事故が発生したことから、昭和54年から特定犬制度を導入しました」ということである。昭和54年。1979年のこと。今から40年前!

詳細は知らないが、その咬んだ犬というのは、おそらく普段は繋ぎ飼いを受けていた犬なのではないか。放たれた時に人を咬んだのは、もしかして繋がれ続けている生活のために刺激が少なく頭がおかしくなっていたためかもしれない。そして40年後の現在、多くの人は犬とより密接に暮らそうと室内飼いを行なっている。その頃と今では飼い犬の状況に雲泥の差があるはずだ。にもかかわらず、当時の前提の元にこんな条例をいまだに採用し続けている。私は茨城県や佐賀県にいる大型犬愛好家のみなさんが実際にどのように犬と暮らしているのかとても興味がある。この条例のために、犬たちは檻飼いを強いられているかもしれないが、飼い主の皆さんからたくさんの愛情、刺激や運動をもらっていると信じたい。

係留の定義、群馬県の条例の場合

ところで他県の条例に記されている「係留」とは、必ずしも「繋ぎ飼い」を意味することではないようだ。例として群馬県における「動物の愛護及び管理に関する条例」では、係留を以下のように定義している。

飼い犬を逃げるおそれがなく、かつ、人の生命、身体又は財産に対して侵害を加えないように、おりその他の囲いの中に収容し、又は固定したものに鎖等で確実につなぐことをいう

群馬県の動物愛護センターに問い合わせたところ、室内でフリーにして飼っていても、この条例にあるように飼い犬が逃げないように管理していれば(窓や玄関のドアを閉じている等)、違法にはならないということだ。この答えには正直ホッとした。

繋ぎ飼いというのは動物のウェルフェアを損なうということで、少しづつであるが禁止の動きが欧米ではある。スウェーデン、ノルウェーやアメリカのいくつかの州では違法だ。繋ぎ飼いの弊害についてはまたいずれの機会に。