スクリューテールと脊椎異常、人の遺伝性疾患との関連性

文:尾形聡子


[photo by Michael Sandoval]

犬はさまざまな姿かたちを持つ生物です。犬種によっておおきく異なる外見は、遺伝子の突然変異によって引き起こされた見た目の変化に人が注目し、それを選択、繁殖してきた結果といえるでしょう。そうでなければ、犬の祖先であるオオカミとこんなにも違った形態を持つことは不可能です。

犬種の特徴をあらわすもののひとつ、尻尾の形。巻き尾や鎌尾、立ち尾、垂れ尾、飾り尾、リス尾、ラットテール、オッターテール、ボブテール・・・などなど尻尾ひとつとってもさまざまな形状があります。その中に、ブルドッグやフレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリアに見られるスクリューテールと呼ばれる、コルクの栓抜きのようにくるりとらせん状になっている短い尻尾があります。この、スクリューテールをつくり出している原因となる遺伝子変異をアメリカのカリフォルニア大学デイビス校(UCデイビス)の研究者らが発見し、その結果を『PLOS Genetics』に発表しました。

スクリューテールと脊椎異常はDVL2遺伝子の変異が原因

ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリアの共通項はなんといっても短頭種であること。丸い頭、短いマズル、離れた目は短頭種としての特徴ですが、短頭種の中でもこの3犬種には脊椎の異常やスクリューテールであるというさらなる共通した特徴がみられます。スクリューテールも脊椎の形成異常であり、8~15個の尾椎を欠如していることが大きな原因とされています。また、ちょっと専門的になりますが半椎(hemivertebrae)楔状椎(wedge vertebrae)、蝶形椎(butterfly vertebrae)といったさまざまな脊椎の奇形や脊椎融合がみられることも多々あります。

研究者らはスクリューテールという形態に着目し、スクリューテールの犬10頭を含む21犬種96頭と4頭のミックス犬の全ゲノムシーケンス(whole genome sequencing)を行いました。読み取ったゲノム配列を比較したところ、スクリューテール犬において、DVL2(DISHEVELLED 2)という遺伝子にフレームシフトと呼ばれる変異が起きていることが分かりました。

DVL2はwntシグナル経路と呼ばれる、骨格および神経系の発達に関与するタンパク質のシグナル伝達のネットワークをつくる遺伝子群のうちのひとつです。変異の起きているDVL2は正常な働きがでるタンパク質をつくれないため、wntシグナルにおけるタンパク質の伝達リレーにも変化を起こしていることも示されました。

そしてこのDVL2の変異はブルドッグとフレンチ・ブルドッグでは固定されており(犬種の100%がこの変異を持つ)、ボストン・テリアは固定されていなかったものの、0.94とかなり高い遺伝子頻度であることも明らかになりました(たとえば100個の対立遺伝子があればそのうち94個が変異型のDVL2であるだろうということ)。下の表は各犬種におけるDVL2遺伝子の数を一覧にしたものです。遺伝子は両親から受け継いでいるため2つあり、+/+は2つともノーマル(変異なし)、+/dvl2は片方に変異あり、dvl2/dvl2は両方とも変異あり、をあらわしています。


[image from PLOS Genetics]

この表を見れば明らか、一番右のDVL2遺伝子両方ともに変異のある遺伝子型の犬種はブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリアにほぼ限られていて、同じ短頭種でもシーズーやパグには変異したDVL2遺伝子は存在していないことがわかります。


[image from PLOS Genetics]

また、上の表はDVL2遺伝子両方に変異がある(dvl2/dvl2)場合、胸椎(表左:thoracic vertebral)と尾椎(表右:caudal vertebral)に異常があるかどうかを調べたものです。すべてのdvl2/dvl2の犬はもれなく尾椎の数が欠けていてスクリューテールになっていますが、胸椎形成異常との関連性は明らかなものの割合は犬種によって異なっていました(Presentは異常あり、Absentは異常なし)。


[photo by Andrew Smith]
同じ短頭種でもパグは違う尻尾の形。

人の遺伝性疾患Robinow症候群との強い類似性

今回スクリューテールと脊椎異常との関係が明らかになったDVL2遺伝子と同じタンパク質ファミリー(少しタイプが違うが同じような働きを持つもの)のDVL1とDVL3遺伝子は、人のRobinow症候群と呼ばれる遺伝性疾患の原因遺伝子としても知られているものです。

Robinow症候群の患者があらわす特徴は、3犬種のそれととてもよく似ています。横広なベイビーフェイス、離れた目、短い四肢、半椎や蝶形椎といった脊椎異常など、見た目にも解剖学的にも共通した特徴があります。そして、いずれにおいてもwntシグナル経路が正常に働かなくなることが原因となっていることも共通しています。

Robinow症候群は人ではとても稀な病気です。しかし、それとよく似た特徴をあらわす原因となるDVL2遺伝子の変異は、3犬種にとって犬種を特徴づける遺伝子変異ともいえます。そのため、かりに繁殖によって他犬種などから正常なDVL2遺伝子を入れれば、これらの3犬種はスクリューテールを失うことになるでしょう。また、丸い頭、短いマズルといった短頭種の特徴をつくっているのは、DVL2遺伝子変異のほかにも複数の遺伝子が関与しており、同時に気道閉鎖症候群(BAOS)などの慢性的な健康問題とも関係しているだろうと研究者らはいっています。

特定の遺伝子変異が犬種の特徴を作ってはいるけれど

近年、短頭種人気は世界的に高まっていますが、その形態的特徴が原因となる健康上の問題が多いのも事実です。たとえばイギリスでのフレンチ・ブルドッグ人気は異常ともいえるほど高まっており、それにともない健康問題が危惧されているという状況にあります。

短頭種ばかりでなく、短足をつくる遺伝子は短足犬種がかかりやすい椎間板疾患にも同時に関係していることが明らかにされています。このように、オオカミから形態的に離れている形で犬種としての特徴を持つには、必ず何らかの遺伝子変異が関係しているものなのです。さらに、そのような特定の遺伝子の変異は形態的な特徴をつくり出すだけでなく、病気とのかかわりがあることも往々にしてみられることです。身近なところでは、ホワイトボクサーやダルメシアンなどの白い毛をつくる遺伝子変異は聴覚異常にも関係しているという例があげられるでしょう。

このように、ひとつの特徴を犬種に固定させようとすると、思わぬところに好ましくない特徴も固定されていたということが、近年の数々の犬ゲノム研究から明らかにされています。ゲノムの存在など知られていない時代から、人々は試行錯誤しながら犬種たる特徴をつくりあげてきました。しかし、それが健康に悪影響を及ぼすものであることが明らかにされ、かつ、原因となる遺伝子変異が突き止められたなら、犬種のスタンダードそのものをしっかり見直すべき時代になっているのではないかと強く感じています。

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【参考文献】

Whole genome variant association across 100 dogs identifies a frame shift mutation in DISHEVELLED 2 which contributes to Robinow-like syndrome in Bulldogs and related screw tail dog breeds. PLoS Genet. 2018 Dec 6;14(12):e1007850.

【参考サイト】

UC DAVIS