犬の恐怖行動を見極める飼い主トレーニングとその効果

文:尾形聡子

[photo by RVADrewsPix]

みなさんは犬のどこを見て恐怖を感じていると判断していますか?

尻尾を下げる、ハアハアとパンティングをする、耳を後ろに寝かせる、体を硬直させる…など、犬は恐怖を感じると体の色々な箇所に恐怖シグナルをあらわします。以前、『怖がりな犬についての大規模調査~フィンランドの研究より』で紹介したような、飼い主へのアンケートを元に解析を行う研究が世界中で数多く行われていますが、実際のところ、飼い主はどのくらい正確に犬が恐れている状態を認識できているものなのでしょう。もし、アンケートに参加する飼い主の多くが犬の恐怖行動をあまり認識できていないとするならば、アンケート調査そのものの信ぴょう性は低いものとなってしまいます。

その点に着目したカナダのゲルフ大学オンタリオ獣医学部(Ontario Veterinary College, University of Guelph)の研究者たち。飼い主はどの程度犬の恐怖行動を認識できているものなのか、そして、飼い主が犬の恐怖行動を見極めるトレーニングを受けたあとには、その精度は高まるのかということを明らかにすべく研究を行い、結果を『Applied Animal Behaviour Science』に発表しています。

犬の恐怖シグナルの多くを認識できているものの、すべてではない

研究では最初に、犬の恐怖行動をあらわしているか否かを判断してもらうために、735人の飼い主にビデオクリップを見せました。犬が低姿勢をとる、耳を後ろに寝かせる、尻尾を下げる、尻尾を振る、パンティングする、舌をペロリとする、あくびをする、唇をなめる、アイコンタクトを避ける、隠れたり逃げたりしようとする、という行動についての正解率は75%を超えていたそうです。一方で、頭の位置、尻尾や体を硬直させる、震える、額にしわを寄せる、白目をちらりと見せる、口元がぎゅっとなるといった徴候は見逃す傾向が見られました。研究者らは、正解率が高かった犬の恐怖シグナルについて、それぞれの行動と恐怖レベルとを解説するトレーニングビデオを作成しました。

次いで、犬の行動を評価するC-BARQ(統計学的手法を用いた犬の気質や行動特性を解析するシステム)の中の、恐怖と不安に関するセクションにおいて、1,413人の飼い主が自分の犬について回答を行いました。その後、飼い主を2グループに分け、707人には犬の恐怖を解説するトレーニングビデオを見て学習してもらい、残り706人は何もトレーニングを受けないまま、すべての飼い主に9つのビデオに映る犬の恐怖レベル(恐怖なし、軽度または中程度の恐怖、強い恐怖)がいずれであるかを判断するよう求めました。

そして最後に、すべての飼い主はもう一度C-BARQの恐怖セクションにおいて、自らの犬に対する回答を行いました。トレーニングビデオの効果があったかどうかを確認するためです。

トレーニング効果は見られたけれど

9つのビデオ判定において、恐怖がない犬に対しての判断はトレーニングビデオを見たグループと見ていないグループの間に有意差は見られませんでした。しかし、軽度または中程度の恐怖と強い恐怖についてはトレーニンググループの方がより正確に判断できるようになっていることが示されました。しかし2度にわたってのC-BARQへの回答は、両グループいずれにおいても大きな変化が見られなかったという結果になったそうです。

これらの結果を受け研究者らは、飼い主へのトレーニングが見知らぬ犬が見せる恐怖行動への評価をより正確にしたものの、なぜ自らの飼い犬の行動評価には変化が起きなかったのかを知る必要があるとしています。C-BARQへの回答の正確性を高めるためにトレーニングビデオを使うことを推奨する前に、まずはそこを明らかにすべきと考えているようです。

自らの犬が見せる恐怖行動の判断はトレーニング前から正確だった可能性や、自らの犬に対しては先入観や固定観念が根付いてしまっている可能性がこのような結果を導いたとも考えられるでしょう。トレーニングビデオを見てから再度自分の犬をしっかりと観察する時間がなかったことも原因かもしれません。

いずれにせよ、飼い主がトレーニングビデオを見て学習したことが犬の恐怖を正確に認識する方向に働いたという点は大事だと感じます。飼い主が知識を増やす努力は欠かせないことと思いませんか?愛犬とよりよいコミュニケーションがはかれるよう、知識を蓄え実践し、愛犬を観察する眼力をパワーアップさせていきたいものですね。

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【参考文献】

Effect of training for dog fear identification on dog owner ratings of fear in familiar and unfamiliar dogs. Applied Animal Behaviour Science. Volume 208, Pages 66–74.