犬の見る世界に鮮やかな赤や緑は存在していない

文:尾形聡子

[image from Royal Society Open Science]

物を見るためには眼球を構成する膜のひとつ、網膜にある視細胞が光の信号を受け取ることが必要です。視細胞は錐体細胞(すいたいさいぼう:cone cell)と桿体細胞(かんたいさいぼう:rod cell)があり、そのうち錐体細胞が色を認識するための働きを担っています。錐体細胞じたいにも種類があり、それによってどの光の周波数を感受できるか異なります。そのため、それぞれの生物が備え持つ錐体細胞の種類により、その生物が見る世界の色が異なっています。

過去には犬が見る世界はモノクロだといわれていたものです。しかし近年の細胞組織学や分子生物学研究の進展により、犬は青色と黄色の光の波長を感知する錐体細胞を持つ、2色型色覚の動物であることが示されていました。そしてそれは、人での赤緑色盲(赤系と緑系の色の弁別が困難)と類似しているだろうことが示唆されていました。

実際のところはどうなのか?それを明らかにするため、イタリアのバーリ大学の研究者らは犬に色覚検査のひとつである石原表を使ったテストを行い、結果を『Royal Society Open Science』に発表。これまでに想定されていた通り、犬は人でいうところの赤緑色盲と同様の色覚を持つことを支持するものとなりました。

人間用の検査をアレンジして

研究者らは16頭の犬(オーストラリアン・シェパード、ブリタニー・スパニエル、ワイマラナー、ミックスなど)を対象に、石原表で使用されている緑と赤を使い、緑の背景に赤色の猫が走っているものに変更し(トップの画像)、走り抜ける猫のアニメーションを3種類作成しました。人の場合は猫ではなくて数字がそこに描かれています。トップ画像の一番上が赤緑色盲の人が検出できる赤(実際には赤には見えない)、真ん中は検出が困難な赤、一番下の黒い猫はコントロール用です。それを利用して、以下の写真のような形でテストを行いました。

[image from Royal Society Open Science]

テストの様子はビデオに録画され、犬が映し出された画像を目で追ったか、目を見開いたか、体が前に動いたか、耳の向きが変わったかどうかなど、猫の動きに対して何らかの反応があったかどうか、行動解析が行われました。

その結果、犬はコントロール用の白背景の黒猫に最も反応を示し、続いてトップ写真上段の赤にも反応を見せたものの、赤緑色盲の人は検出困難とされる中段の赤い猫にはほとんど反応を見せることはありませんでした。人用の検査をアレンジしたものを利用し、犬は人の赤緑色盲の人と同様な見え方であることが示されたテスト結果になりました。

犬にとって色で識別できることだけが重要?

犬が赤と緑が同じような色に見えるのならば、緑の芝生の上で赤色のボールを探すことは難しいと考えられます。緑の芝の上に赤いバケツを置いたりしても、犬はそれを障害物として認識しにくいかもしれません。そういった意識は私たち人間が持ち、犬たちに事故がないように、快適な環境で暮らせるように対応していくべきことのひとつだと思います。

犬は色覚という点では人よりも感知できる範囲は狭いですが、すなわちそれは視力が悪いというわけではありません。犬の見え方は想像していたよりも精密な可能性がありそうです。それについてはまた次回にお伝えしたいと思います。

そして気に留めておくべきことは、犬が視覚を通じて得る“動き”の情報です。犬は声よりもジェスチャーでの合図を選択するとの研究結果もあるように、他者の動きに敏感な生き物です。そうであることを意識して、”動き”をひとつの情報としてしっかり犬たちに向けて発信していきたいものです。ちなみに犬は人とは逆に、歳をとると近視になる傾向にあることがこれまでの研究により示されています。高齢の犬たちは聴力も落ちていますから、遠くから合図を送るときにはより大きなジェスチャーで分かりやすく伝えることも必要となってきますね。

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【参考サイト】

LIVE SCIENCE

【参考文献】

Are dogs red–green colour blind? Royal Society Open Science. 2017