ストレス経験は犬を眠りに落ちやすくさせ、眠りの質も下げる

文:尾形聡子

[photo by Matt Cooper]

とても辛いことがあったり強いショックを受けたりした日には、なかなか寝つくことができないものです。やっとの思いで眠りにつけても、寝ては覚めてをくり返したり、朝起きて体がだるくて仕方がないといったこと、これまでに一度は経験しているのではないでしょうか。

人の感情が眠りに影響を及ぼすことについては、科学的な側面からの研究が盛んに行われています。しかし、人以外の動物の感情が睡眠に及ぼす影響についてはほとんど分かっておらず、もれなく犬に関しても明らかにされていませんでした。そんな中、ハンガリー科学アカデミーやハンガリーの大学などによる研究チームが、世界で初めて犬の経験がその後の睡眠にどのような影響を及ぼすのかを調べ、結果を『Proceedings of the Royal Society B』に発表しました。

ストレスを感じる嫌なことと、楽しく好きなことをした後の睡眠時に脳波を計測

実験には16頭のさまざまな犬種の家庭犬が参加。犬たちは、最初に脳波をはかる装置と実験室に慣れるようトレーニングを受けました。つづいて、ポジティブな経験とネガティブな経験をそれぞれ6分間経験させられます。半分の犬は最初にポジティブな経験をしてから続いてネガティブな経験を、残り半分はその逆の順番で両方の経験をしました。これらのふたつの経験は少なくとも5日間の間隔がとられて行われました。

実際に犬たちが経験したポジティブな経験は犬が喜んだり楽しんだりすることで、飼い主のところに行くたびになでられ優しく話しかけられたリ、好きなおもちゃを引っ張り合ったり、持ってこい遊びをしたりするものでした。一方、ネガティブなストレス経験では、最初の2分間、犬は壁に繋がれてひとりで部屋に放置されました。そのあと部屋に入ってきた飼い主は犬の近くに立つものの完全に犬は無視されたままでした。さらには見知らぬ実験者も加わり、脅迫的な様子で回りをウロウロされた挙句、3分間目をじっと見つめられるというものでした。

その後、別の部屋に移動して、犬たちは脳波を測定する無線ヘッドセット(EEGセンサー)を装着され、決められた場所で眠るよう促されました。

ストレス経験は深い眠りを妨げ、寝入るまでの時間を短くする

犬たちが睡眠に与えられた時間は3時間。まず、寝入るまでの時間に差が見られました。ポジティブ経験後のグループは20分で寝入ったのに対し、ネガティブグループはその半分の10分でした。また、睡眠サイクルにも違いが見られました。ポジティブとネガティブのグループ間でのトータル睡眠時間にはそれほど差がなかったものの、ネガティブグループはレム睡眠(休息眼球運動を伴い、脳は覚醒状態)の時間が20分長く、ノンレム睡眠(休息眼球運動を伴わず、脳が眠る状態)の時間がその分少なくなっていたことが示されました。さらに、犬の性格と行動、睡眠サイクルの変化との間にも関連が見られ、犬の性格の個体差も睡眠状態に影響しているだろうことが示されたそうです。

研究者らは、ネガティブ経験をした犬の寝つきが早かったことについて、ストレスに対する防衛機制が無意識的に働いていたためだといっています。防衛機制とは、受け入れがたい状況または潜在的な危険にさらされたときに、それによる不安を軽減しようとする無意識的な心理メカニズムです(参照:ウィキペディア)。また、ネガティブグループのノンレム睡眠が有意に短かったことについては、ストレスのかかる経験を感情的に処理するため、レム睡眠の時間が長くなったのだろうと考えているそうです。

これらの結果を受けて研究者らは、眠れない夜が一晩ならば問題にはなりにくいが、ネガティブな経験が繰り返されるようになれば睡眠に問題が起きてくる可能性があるとし、犬の睡眠と福祉の関連性を明らかにするためにもさらなる研究が必要であるといっています。

[photo by Karen]

慢性的なストレスにより、犬は眠りに助けを求めるようになる可能性がある

犬も人と同様に、楽しく幸せな気持ちになることが、質のよい眠りへのいざないとなることが示された結果となりましたが、ストレス経験が寝つきに与える影響は異なり、犬はむしろすぐに眠りに落ちることが分かりました。

研究者らは、これはストレス反応のひとつで、自らの不安を素早くシャットダウンするための自己防衛のようなものだとしています。このことは、『犬も暇にはうんざり!』でお伝えしましたように、外界からの刺激を十分に得られずに暇を持て余すと、退屈という不快感を避けるための消極的な手段として、眠るという行動を選択する場合がある、ということと共通している部分だと感じます。つまり、犬がストレスを受ける要因が直接的なものであっても、ネグレクトのように間接的なものであっても、そこから導かれる行動のひとつが眠ることであると考えられるわけです。

眠りは生物が健やかに生きていくために必要不可欠の休息時間です。質のいい睡眠は質のいい生活を送ることにもつながります。愛犬とたくさんの楽しい時間を過ごし、人も犬もいい眠りにつけるようにしていきたいですね。

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【参考文献】

Sleep macrostructure is modulated by positive and negative social experience in adult pet dogs. Proc Biol Sci. 25;284(1865). 2017

【参考サイト】

Companion Animal Psychology