健康になるという理由だけで犬を飼うなかれ

文と写真:藤田りか子

「犬の散歩に行けないという理由で唯一正当化できるのは、病気の時ぐらいでしょうか。その他の理由に関しては、私は全て言い訳だと思うのです。『だって散歩する時間がないから』ってよく言いますけど、そもそも時間がない人は犬を飼っちゃいけないんです。あるいは『うちの犬には散歩が必要ない』『うちの子、雨の日外に出るのが嫌い』なんていうのも全て言い訳。そして『うちの子、怠け者で外に出たがらない』とか言う人もいる、それ怠け者は犬じゃなくて、あなたでしょう?」- アリスより

これは、英国リバプール大学の公衆衛生学の研究者キャリー・ウェストガースさんらの今年発表された論文からの引用だ(和訳は著者による)。26人の犬の飼い主を対象にどうして犬の散歩するのかあるいはサボるのか、その心理や動機をじっくりと個人的にインタビュー、それを解析、論文として発表した。インタビューを受けた一人が冒頭にあるようキャリーさんに語ったのだ。

散歩をしない飼い主40%!

さて、散歩をしない言い訳は数あれど、散歩をする動機というのは、みなさん案外共通しているのではないだろうか。おそらく

「犬のためを思って」

と多くの人が答えると思う。私もその一人だ。雨や疲れた日など考えれば明らかだ。「今日は散歩を休みたい〜」と一瞬思えど、「それじゃ犬がかわいそう…」と外に出る。だが、実際のところ犬がいても散歩を規則的にしない人というのも沢山いるそうだ。アメリカとオーストラリアの調べでは、犬の飼い主の40%もの人がほとんど散歩を行なっていないという。なんと!

これを調べた研究者の意図はただし「犬の恩恵による人の健康」。だから残りの60%もの人が犬のおかげで外に出て運動していたということを報告したかった。そう、人の健康のためという視点でこの報告を見る限り、犬の恩恵は統計的に有意で大いに喜ばしい結果とも言えるだろう。が、犬のウェルフェアの観点で見ると正直ショックな数字(40%)だ。半数近くもの飼い犬たちが外に規則的に出してもらえていないだなんて…。

【Photo】:PEXELS
飼っている犬が小型犬である場合、散歩をする頻度が減るという理由が出た。やはり、と言うべきか?

動機は「自分が健康になりたい」じゃなくて「犬に幸せになってもらいたい」

こんなに散歩をしない人がいるからこそ、前出のキャリーさんらは、逆に散歩をする人の動機に注目をした。どうして人は散歩をするのだろうか。散歩をしない人は散歩をする人の動機から何を学べるだろうか。その研究の一部(2016年発表)はブログ「犬の散歩を続ける秘訣は?」に詳細が記されているので参照にされたい。629人を対象にしたアンケート結果である。今年発表されたキャリーさんの報告はさらに面白い点をついていた。

そこでわかったのは「犬のニーズを満たしてあげたい」そして「犬にハッピーになってもらいたい」という愛犬への純粋なる思いやりこそが、散歩に出かける飼い主の一番のモチベーションであったという事実。ここで気付かれたいのは、人の(飼い主の)ニーズがモチベーションとして優先されていないこと。まずは散歩によって犬のニーズが満たされて、次にそれに満足する自分がいる、というのが順番だ。

高齢者は犬を飼うことで本当に元気になれるのか?

「犬がいると外に出るモチベーションが与えられ健康になる」「犬は社会の潤滑油になる」などと犬を飼うことのメリットがマスメディアでもよく取り沙汰されている。だがこの報告によると実際の飼い主心理として、あくまでもそれは散歩のもたらす二次的効果に過ぎず、決して散歩の動機や目的として役割を果たしているわけではない、ということだ。となれば、どうしてこれまで「犬を介して子供に運動を!」というような肥満児撲滅キャンペーンが欧米でそれほど成功に繋がらなかったのか、キャリーさんらはこのインタビュー研究を通して「納得できる」とも記している。決して人は自分の健康を目的に犬の散歩をしない。また犬を飼っているだけで、自動的に散歩という運動に掻き立てられるわけでもない(冒頭の言い訳を参照)。まずは愛情と責任感があってこそ!

日本で最近叫ばれているような「高齢者に犬を飼ってもらいよりヘルシーなシニア・ライフを」という類のプロモーションも、この結果を見る限りでは、あまり効果が望めないのかもしれない。健康にいいというそれだけで犬を飼った人が、本当の犬好きでなかったり責任感に欠けたりしていれば、残りの40%の人々と同様にいずれは犬の散歩をほとんど放棄する状態となるかもしれない。この研究は「健康」を売り物にして安易に人々に犬を飼わせようとすることへの警鐘になるとも言える。

【Photo】: Pixabay
散歩のみならず、犬にトリックやゲームを覚えさせて一緒に過ごすのは楽しいということを上手にアピールしていけば、もっと犬と関わろうとする人が増えるかも…

どうやったら全ての飼い主がきちんと散歩するようになる?

ただし犬を介して、人々がよりアクティブになる、かつ犬の幸せそうな様子を見てさらに精神的にも満たされるという効果は事実。もし犬を飼っている全ての人が規則的に散歩をしていたら、どれだけイギリス国民全体の平均的健康状態が改善されるだろう、とキャリーさんらは述べている。何と言ってもイギリスでは4世帯に1つが犬を飼っているのだ。となれば、ではどうやって犬を飼っている人々を散歩にさそいだすか、それがこれからの課題でもあるという。その戦略として以下のことが述べられている。

  • 犬と散歩に出かけるのを習慣化させる方法を考える(人々は否応無しにルーティーンに従おうとするから)
  • 犬と散歩すると、犬が喜びその楽しみを飼い主もシェアでき、飼い主が幸せになるということをプロモーションする
  • 散歩のみならず、犬にトリックやゲームを覚えさせて犬と過ごすのは楽しいということをもっとアピールする
  • 小型犬にはあまり運動が要らない、という都市伝説を変える(精神的に刺激を与えるためにも小型犬にも運動は大いに必要だ)
  • 犬と散歩しやすい環境を作る(犬の侵入が禁止されている場所が多ければ、散歩に出るという動機が湧きにくくなる)

これに付け足したい私の個人的な提案は、犬を飼うということに関しての大衆の倫理観の底上げではないかと思うのだ。何はともあれ「健康のために」というキャッチは今や使えない、ということだ。

【関連記事】

犬の散歩を続ける秘訣は?
文:尾形聡子 犬を飼ったら毎日散歩。たとえ犬と暮らしたことがなくても、多くの人々が犬の日常生活に散歩が必要なことは知っていると思います。しか...