子犬は赤ちゃん言葉を好んで聞いている

文:尾形聡子

[photo by Jonathan Kriz]

赤ちゃんを前にすれば、誰しも無意識のうちに普段の言葉づかいとは違う話しかけ方をするものです。たとえば犬のことならば”ワンワン”といったように、いわゆる赤ちゃん言葉を使い、声のトーンを高めに、ゆっくりと優しく話しかけているのではないかと思います。では、私たちが犬に言葉をかけるときにはどうでしょう?私たちが犬に話しかける言葉のスピードやトーンの違いは犬に何らかの影響を及ぼすものなのでしょうか。

アメリカ、イギリス、フランスの研究チームが『Proceedings of the Royal Society B』に発表した研究によりますと、人の赤ちゃん同様に、子犬も赤ちゃん言葉で話しかけられるのを好む傾向がみられることが示されたそうです。

実験ではまず、ボランティアの女性30人に子犬から成犬までの写真を見せ、あらかじめそこに書かれている “Hi! Hello cutie!、Come here sweetie pie!、What a good boy!”といった短いセンテンスを写真の犬に話しかけてもらいました。また対照実験として、普段の口調で人に話しかけているものも録音されました。次に、ニューヨークのシェルターにいる10頭の子犬と10頭の成犬に録音した言葉を聞かせ、どのように反応するかを録画し、行動を解析しました。

まず写真の犬への話しかけでは、女性たちはおしなべて、犬に話しかけるときは普段よりもゆっくりと高いトーンで話しかけていることが明らかになりました。さらには写真に写っている犬の年齢に応じて話し方を変える傾向がみられ、子犬に向かって話しかけるときにはよりゆっくりと、高いトーンでという特徴が顕著にあらわれていたそうです。

そして犬反応を調べると、成犬は普通の口調でもハイトーンの口調でも同様に反応していた一方で、10頭中9頭の子犬はハイトーンでゆっくり話している言葉により素早く強く反応している様子が見られました。それについて研究者らは、子犬はハイトーンでゆっくりした声を、”遊び”への誘いと感じているかもしれないといっています。

また、これまでの人での研究から、大人が赤ちゃん言葉で話かけると幼児は言葉を習得しやすいことが示されています。今回の結果は、犬でも同様に、子犬に対して赤ちゃん言葉を使うと、犬の単語学習を効果的に進めることができる可能性があるかもしれないこと示唆するものだとも研究者らはいっています。

なぜ成犬は赤ちゃん言葉のスタイルに反応しないのか、そして、なぜ子犬がそれに優先的に反応するのかという理由そのものは分かっていません。しかし、人は言葉を伝えにくい相手、たとえば外国人やお年寄りなどに対してゆっくりと話す傾向にあるように、犬にもゆっくりと語りかければ “伝わりやすいかもしれない”という潜在意識が存在しているのではないかと感じます。子犬の赤ちゃん言葉への強い反応は遊びへの誘いに聞こえているかもしれないとのこと、子犬と遊ぶ機会があるときには是非とも話し方による反応の違いを試してみたいものです。

(本記事はdog actuallyにて2017年1月17日に初出したものを一部修正して公開しています)

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【参考サイト】
Science News
EurekAlert!