文:尾形聡子
嗅覚ほど、人と犬とで最も異なる感覚はないといっても過言ではないでしょう。視覚中心の生き物である私たちには、犬がどのように嗅覚を使って外界を感知しているのか、実際に感じとることは残念ながらできません。だからこそ、人は犬の嗅覚の大切さを見落としてしまいがちでもあり、また、尚更にその見知らぬ世界を想像したくなるものです
嗅覚に重点を置き犬の認知研究を続けている、コロンビア大学バーナード・カレッジのアレクサンドラ・ホロウィッツ博士については『犬から見た世界(Inside of a dog)』が翻訳出版されていることから、読者の皆さんの中でもご存知の方が多いのではないかと思います。そんなホロウィッツ氏が新書『Being a Dog: Following the Dog Into a World of Smell(翻訳版未発売)』の中で、”Dogs smell time”と、犬は日々の匂いの変化で時間をはかっていることに言及しているそうです。
「犬は部屋の中の空気の変化を通じて、時間をはかることができる」とホロウィッツ氏。犬は日中の気温の上昇にともない部屋の中の空気の密度や温度の微妙な変化を嗅ぎ取り、時を知ることができているのだろうといいます。また、匂いの強弱によって、新しい匂いか古い匂いかといった時の経過を判断することができるのはよく知られています。仕事で出かけるときには一番強く残っていた飼い主の匂いは時間の経過とともに弱まっていきますが、犬はその匂いの弱まり方でも帰宅の時間を予測することができるのかもしれません。
また、犬は鼻の穴を左右で使い分けていることもこれまでの研究により示されていますが(『使い分けられていた、犬の鼻の穴』参照)、犬は二つの鼻の穴それぞれがキャッチする匂いで、匂いの世界を構築しているだろうともいっています。それはまさに、人が二つの目から入る情報を立体映像としてとらえられるのと同じではないかということです。
犬がそれだけ嗅覚に優れた生き物であるならば、時を知るために視覚以外の情報をふんだんに使っているだろうことは想像に難くありませんよね。犬にとって匂いを嗅ぐという行為は、生きていくうえでとても大切なことなのです。
(本記事はdog actuallyにて2016年12月6日に初出したものを一部修正して公開しています)
【参考サイト】
・Science of us
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