文:尾形聡子
犬が家畜化され、進化の過程で得た能力または失った能力が何であるかをしるために、ウィーン獣医大学ではオオカミと犬の行動を比較する研究を続けています。『Frontiers in Psychology』に発表された新たな研究によれば、犬は手堅い選択をする能力を身につけたようです。
研究では、ウィーン郊外にある Wolf Science Center で、同じ環境下で育ったオオカミと犬の行動を比較することで、リスクを選択する傾向に違いがあるのかどうかを調べる実験が行われました。参加したオオカミ7頭と犬7頭は、まず、ボールに隠された食べ物を得るために、鼻もしくは前肢でボールを選択するようトレーニングを受けました。普通のボールをさかさまにしたものの下には、普段食べているような味気ないドライフードが少量隠されていることを、もう一方で、ボールを小さな木箱で覆うようにしたものには、半々の確率で鶏肉やソーセージなどの大きめな塊か、もしくは石が入っていることを教えました。
その結果、トライアルの80%でオオカミは一か八かの選択、肉か石かどちらかである方を選んでいましたが、犬が賭けに出る選択をしたのは58%にとどまりました。これまでに、ほかの野生動物において行われた研究からも、食料が確実に得られるかどうかわからない状況で生活する種のほうが、よりリスクを選択することが示されているそうです。
すこし話はそれますが、ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンらにより生み出されたプロスペクト理論とよばれるものがあります。人間が利益と損失を目の前にしたときに、どのように意思決定を行うかについて説明する理論です。簡単に説明しますと、100万円が無条件で手に入るか、もしくは5分5分の確率で200万円が手に入るかの選択をするとき、ほとんどの人が確実に100万円を手に入れるほうを選択する、というようなものです。これは利益よりも損失に対して敏感であるとも捉えることができます。
人が保証された利益や安全への期待を選択する傾向は、生き残りをかけた自然淘汰の過程をへて進化させてきた性質と考えられています。賭けにでるか、それとも、手堅くいくかという選択について、霊長類以外の動物で実験が行われたのは今回が初めてのことだそうですが、犬は”手堅い選択をする傾向にある”という点で、人に類似した進化をしてきたことを示唆する結果ともいえるでしょう。
このように、似た性質を持つように進化してきたこともまた、犬と人が長きにわたって共に暮らし続けてこられた理由のひとつかもしれませんね。
(本記事はdog actuallyにて2016年10月6日に初出したものを一部修正して公開しています)
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【参考サイト】
・EurekAlert!