ケンカした後どうするの?~犬はお互いに避け合い、オオカミは仲直りする傾向に

文:尾形聡子

[photo by smerikal]

夫婦喧嘩、親子喧嘩、兄弟喧嘩など、家庭内で起こるケンカをみても、それぞれに名称がつくほどにケンカは日常的なものだといえるでしょう。血縁関係以外の社会集団においても、子どもから大人まで、学校や会社などで小さなケンカは毎日どこかで必ず起きています。しかし多くの場合、たとえ敵対することがあっても相手との今後の利害関係を考え、関係性を修復しようとしたり、なるべくストレスを受けないギリギリのところで関係を維持しようとするものです。

では犬同士がケンカをした後、犬はどのようにふるまうものなのでしょうか。一般的に、社会的な動物においては他個体との協力の必要性の高さによって、和解の頻度が異なるといわれています。進化の過程で犬が得た能力と失った能力について研究を重ねるウィーン獣医大学の研究者らは、オオカミと犬それぞれのケンカ→和解の行動パターンを比較観察し、その結果を『Royal Society Open Science』に発表しました。

犬はケンカ早くはないものの、いざ始まると激しくなりがち

ウィーン郊外にある Wolf Science Centerで、ほとんど同じ環境下で育ったオオカミと犬の群れ各4つ、トータルで各13頭ずつを対象に調査が行われました。捉えられた野生のオオカミから生まれた子オオカミたち、犬はハンガリーのシェルターからやってきた子犬で、いずれも10日齢から人の手で育てられ、生後5カ月になってから大人たちの群れに放たれました。しかしその後もトレーニングや研究のための実験などを通じて、ずっと人とのコミュニケーションをとってきたオオカミと犬たちです。

センターにある特定の広いエリアで自由行動をする各パックの行動が観察されたのは、2013年1月から2015年3月までの期間でした(観察期間は群れによって異なる)。観察は週に2日1時間行われ、延べ時間としてオオカミの群れは約523時間、犬は約403時間にわたって観察されました。

その中で見せた敵対行動や、その後の行動などをつぶさに解析したところ、攻撃的な関わりを見せた回数はオオカミで419回、犬では55回となりました。そのうち、激しいケンカだったケースがオオカミでは約59%だったのに対し、犬では約86%となっており、犬はオオカミに比べるとケンカ早くはないものの、ケンカすると激しくなりがちであることが示されました。

[image from Royal Society Open Science]

【オオカミと犬のケンカの強度の違い】
左がオオカミ、右が犬。青いバーが激しいケンカ、赤いバーはゆるめのケンカの割合を示している。

また、オオカミではケンカ後の和解的交流が約42%でみられました。オオカミはケンカをしても時間が短く、ケンカ10分後には一緒に遊び始めているといった特徴もみられました。一方、犬はケンカの後に和解的交流を見せたのは約23%にとどまり、仲直りせずにお互い避け合う傾向にあることが分かりました。

これらの結果を受けて研究者らは、オオカミはケンカをしても迅速に和解することが群れの生き残りに大きくかかわってくるからだろうといいます。つまり、オオカミは群れのメンバーへの依存度が高く、仲直りすることは群れの機能や結束力を維持していくために重要な戦略となっているということです。一方犬は人と共に暮らし始めるようになってから1万年以上の時を経て進化し、群れとして生き残ろうとする本能の多くを失ってきたため、群れのメンバーへの依存度が低くなったと考えられています。そのため犬が和解行動を取るときは、オオカミよりも社会的環境条件に影響される可能性があるとも研究者らはいっています。

家畜化により犬は人への依存度を高めてきた

これまで、ウィーン獣医大学ではオオカミと犬を比較する研究を数多く行い、家畜化によって犬が新たに獲得した能力や、喪失した能力が何であるかを調べています。2017年に発表された研究では、オオカミは食べ物を得るためにうまく協力しあうことができるけれども、犬は犬同士協力するのがそれほど得意ではないことが示されています。

また食べ物を得る方法に関して、犬はオオカミよりも堅実です。野生動物では、大猟となるかゼロとなるかのイチかバチかの選択をすることが多く、もれなくオオカミもその傾向にあります。しかし、犬は何も手に入らないくらいならばご馳走でなくともそこそこの食べ物でいい、と手堅い選択をする傾向にあるのです。

このように、人というパートナーと共に進化してきた犬は、多くの点でオオカミとは違う特徴を備えていることが明らかになってきています。

ケンカが起こらないようにすることが大事

“犬はあまりケンカをしないけれど、いったんケンカを始めたら激しくやり合う”という今回の結果から、とにかくケンカを未然に防ぐことが大切だといえるのではないかと思います。

犬同士のケンカが思わぬ事故につながってしまわないためにも、初めての犬と対面するときや、ドッグランなどの身体接触が起こりやすい場所ではできる限りの注意をしておく必要がありそうです。

また、多頭飼育をしている人ならば、普段は仲良くしている愛犬同士も一触即発しそうになる経験をしたことがあるかもしれません。たとえ大喧嘩にはならずとも、なんとなくわだかまりが残っているような雰囲気になってしまったということもあるでしょう。仲直りを得意としない犬のためにも、ケンカの原因となりがちな食べ物やおもちゃなどには気を配り、原因そのものをなるべく作らないようにして仲良く暮らしていきたいものですね。

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【参考文献】

The effect of domestication on post-conflict management: wolves reconcile while dogs avoid each other. Royal Society Open Science. 2018.

【参考サイト】

phys.org