使い分けられていた、犬の鼻の穴

文:尾形聡子

[photo from Samantha Durfee]

左右それぞれの脳が持つ役割が異なること、側性化は哺乳類から鳥類、両生類などに至るまで広く生物にみられることがわかっています。犬の側性化に関する研究も多く行われており、目や耳から脳に届けられた情報だけでなく、鼻という感覚器を使う際にも脳機能の左右差が見られることがScientific Americanで紹介されています。

イタリアのバーリ大学とトレント大学の研究者らにより『Animal Behaviour』に発表された論文によりますと、犬の鼻の穴の使い方を調べるために下の写真のような装置を作り、綿棒の先にさまざまな種類の匂いをつけたもの(Cotton swab with odour)をセットして、犬が自由にその匂いを嗅いでいる様子をビデオに録画することで、鼻の左右の使い分けをしているのかどうかについて解析を行いました。

写真右:ビデオカメラから見た、犬が右の鼻の穴を使っている様子(Right nostril used Video camera view)

実験に参加した30頭の雑種犬は、①ドッグフード、②健康なメス犬の発情中の膣から採取された分泌物、③レモン、④何もつけていないそのままの綿棒、⑤顔見知りの獣医師の汗、⑥アドレナリンの6つの匂いについて、数週間にかけてそれぞれのにおいを7回嗅がされ、その様子が録画されました。

その結果、獣医師の汗とアドレナリンの匂いは初回から最後までひたすら右の鼻の穴で嗅ぐ傾向を示した一方で、フードと膣の分泌物とレモンについては初回は右の鼻の穴で匂いを嗅いだものの、回を重ねるたびに右は使わないようになり最終的には左の鼻の穴へとシフトしていく様子が見られたそうです。

犬を含む哺乳類では、左の鼻の穴からの匂いは左脳に、右からは右脳に届けられるそうで、これは、受容器官と脳との左右が逆転する目や耳とは異なる点です。また、基本的に、計算や言語など論理的なことをつかさどる左脳は日常的な行動やポジティブな感情を、音楽や空間など感性的なことをつかさどる右脳は危険回避やネガティブな感情と関連性があるといわれています。今回紹介しました実験結果は、これまでに分かっている左右の脳それぞれが担う役割と一致することを示すものだと研究者らはいっています。

犬は嗅覚に優れた生物であることは誰しも知っていることでしょう。けれども、わき目もふらずに匂いを嗅いでいる犬を見て、匂いの対象によって鼻の穴の使い分けをしているとはなかなか考えつかない視点ではないでしょうか。この手順を使ってみれば、さまざまな匂いが愛犬にとって心地いいものか、もしくは、嫌だと思っているものか、私たちでも調べることができるかもしれませんね。

(本記事はdog actuallyにて2015年4月9日に初出したものを一部修正して公開しています)

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【参考サイト】
Scientific American