犬種と図鑑好き、嵩じて犬種図鑑

文と写真:藤田りか子

図鑑がとても好きで、子供の頃から本を読むよりも図鑑を眺めていたものだ。ただし自分が図鑑を作り上げる張本人になるとはさすがに思わなかった。数年前になるのだが犬種図鑑(最新世界の犬種大図鑑 誠文堂新光社刊)を出版した。犬曰くの愛読者の皆さんならすでにお持ちかもしれない。犬についての記事を書き始めたのはもうかれこれ20年以上前のことになり、取材が積み重なって気が付いてみれば世界の原産犬種の情報や写真のアーカイブが出来上がっていた。そのままにしておくのは勿体無い。そこで犬種図鑑を作るというアイデアに至った。図鑑では犬種数400種以上網羅しているので、犬の博物学に興味がある方はぜひご覧いただきたい。

犬種は本当に興味深い「家畜動物」だと思う。保護犬を飼いましょう!と声高に叫ばれている今、なぜ純血犬種なんだ!と眉をひそめられそうだが、私が犬種を好きなのは「純血犬種のステータスが好き」とかそういう規模の小さなことではない。そのできあがった過程や歴史に、人の文化における犬の役割を垣間見ることができるからだ。そこには人との関わり合いなしには語れない犬という動物の像がある。これは、犬をより理解することにもつながる。

たとえば、一見とても優しそうな抱き犬タイプの小型犬は、実は、彼らよりも数倍大きなガンドッグ系の犬たちよりも、ある意味で頑固であったりする。….どうして?これも犬種を知ることで、理解ができるだろう。特に犬を職業とする人であれば、純血犬種が好き、嫌いに拘らず、犬という動物を理解するための犬学として、犬種図鑑の熟読をオススメしたい。

それにしても犬というのはすごい動物だ。こんなにも人の生活に入り込み独自の生存戦略を繰り広げ、ついには生き物としての大繁栄を極めた。何と言っても世界は犬で溢れかえっている。その祖先ともいうべきオオカミとちょっと比べてほしい。ところによっては絶滅している。野犬としてのみならず犬が犬種としても生き残る術をえたのは、進化学の面で考察してもとても興味深い。各々の犬種が見せてくれる特別の才能、行動…。そして犬種によって異なる社会性と好奇心、トレーニングの性能、人とのコンタクト度の差、集中度の差。のみならず、見かけもバラエティに富んでいて人々を魅了しているのは、ドッグショーを見てのとおりだ。

作業犬種を紹介するにあたって、やはり作業をしている姿をできるだけ写真に収めようと心がけた。その結果!セターにポインティングの動作をさせるには?そう、もちろん鳥の匂いをかがせること!それで鳩を用意したのだ!

犬種に興味があれば、自然と、その犬種発祥の地にも興味が湧いてくるものだ。それであちこちに取材へ行った。様々な場所で、犬と人との 文化を取材してきた。コーカサス山脈が走るグルジアに行って牧畜番犬をみた。実はそのときに番犬に襲われそうになる危機一髪、という時もあった。ドイツに行って、シェパードの祖先となる牧羊犬の働きをみた、そしてなぜ今シェパードがあの体型をしているのかも、その牧羊犬種を見て理解した。あるいは、スペインに行って狩猟犬を観察した。マルタという地中海の島国を故郷とする ファラオハウンドのような犬が、実はマルタに限らず地中海沿岸のあちこちの国に存在しているのを目撃した。いくつかはFCI公認の犬種にもなっている。もちろんマルタに行って、ファラオハウンドの狩猟についても、その土地のハンターに話を伺った。

イタリアにマレンマーノ・シープドッグを撮影しに行った時。羊の放牧場に人と犬がごちゃごちゃになって共存しているのをあちこちで見かけたものだ。こうして現地の「空気」を感じながら、犬種紀行を楽しんだ。

犬種についてもう一つ押さえておかなければならない点。それは、犬種とはブリーディング込みの概念ということだ。地理的な隔離や人の意図的な繁殖なしに、犬種は存続できない。特に人が繁殖をコントロールするとなると、そこでどうしても避けて通ることができないのはブリーディング倫理である。まだ日本では新しい概念かもしれないが、これから犬種を学ぶ若い方たちにもぜひ知ってほしい。犬種図鑑にそのことも記している。ショーの結果だけで、商業的な意図だけで、感情的な思い入れで、今後犬を繁殖してはいけない。そもそも犬種は見かけだけの家畜動物ではない。其れ相当の気質に性能、健全性が伴っていなければ、犬種の意味がなくなってしまう…と個人的に思う。

この度犬曰くから「Retrievers and all about them」というとてもニッチな犬種ムックをリリースした。このムックはまさにこの犬種図鑑の延長でもある。図鑑だけではカバーできない詳しい情報をもっと記したい。そんな思いから出来上がった犬種本でもある。

(本記事はdog actuallyにて2015年3月4日に初出したものを一部修正して公開しています)