文:藤田りか子
「悪い犬というのはいなくて悪い飼い主はいる」
というフレーズをどこかで聞いたことがないだろうか。犬の悪い行いは犬ではなくすべて飼い主の落ち度によるものである、という意味合いだ。しかしMさんの話を聞きながら飼い主を弁護したくなった。Mさんはドッグトレーニングクラブにおける基礎しつけコース担当トレーナー。シェパードの訓練をして数十年のキャリアをもつベテランのドッグトレーナーだ。
彼は自分のコースに参加している問題犬を抱える飼い主について、
「どうして、あの人たち、犬の気持ちをもっとサポートしてあげないんだろうなぁ」
と愚痴をこぼした。彼のクラスの参加犬の一頭、テリアミックスのミロは他の犬を見ただけで吠え始める。飼い主は、「ダメ!」「イケナイ!」を繰り返し、時にはリードを引っ張りまくる。が、ミロは一向にいうことを聞く気配はない。
「あたりまえでしょう」
とMさん。
「『ここは私が守ってあげるから』という安心感とかサポートを、お母さんがワンちゃんに日ごろ与えていないんですから」
とミロのお母さんに伝えた。ただし彼女にしてみればMさんのこの言葉は心外であった。そこでこう切り返した。
「私はミロにベストを尽くしていますよ。お腹の弱いこの子のために食事だって手作りだし、はっきりいって自分に費やす以上にこの子にお金と愛情を注いでいますが」
ミロのお母さんが捉えている「安心感・サポート」とMさんの意味している「安心感・サポート」の見解に食い違いが