この犬種似てる、でも違う! その1

文:藤田りか子


[Photo by OlgaOvcharenko]

この世には800以上の犬種が存在するといわれているが、これだけ数がいると、似たもの同士というのもでてくる。つまり、この2犬種、どう違うんだ?というやつである。たとえばシェットランド・シープドッグ(シェルティ)とコリーをごちゃごちゃにしてしまう人もいる(…とか、いないとか!)。

ならばここに犬曰く参上。そのこんがらがったところをはっきりとさせてあげますよ!そこで、いくつか似たもの犬種をあげて、その違いと見分け方について解説していこう!

シェルティとコリー


ラフコリー[Photo by Sarah Böhm]

よく人をこんがらがせてしまう典型的2犬種、シェルティとコリーをトップバッターに。シェルティの理想体高は35.5〜37cm、コリーは51〜61cmにも及ぶ。それでシェルティはよくコリーのミニチュア版と見なされるようだが、さにあらず。シェルティはシェトランド諸島の厳しい自然条件に適したコリーとは別の独自の小型牧羊犬である。どちらかというと、アイスランディック・シープドッグに歴史的には近い。


アイスランディック・シープドッグ []

一方、コリーの方は牧羊犬として使われていたスコットランドの犬をショー用として改良した結果できたもの。牧羊犬として残った方が現在「ボーダー・コリー」と呼ばれている犬の祖先でもある。ただし一つ付け加えておくと、シェルティが血統犬種として改良されていく過程で、コリーの血が導入されたとも言われている。

体高のみならず、両者の顔つきを見ても、その違いに気がつくだろう。シェルティは、柔らかいまなざし、こぢんまりとした耳を持つ。コリーは、気品の方が強調された顔つきで、耳はやや大きい。


この甘い顔の持ち主はシェルティ [Photo by JackieLou DL]

カラーバリエーションが異なる。コリーのカラーはセーブル、トライカラー、ブルーマールのみ。シェルティもコリーと同様の色を持つが、さらにブラック&ホワイト、ブラック&タンも加わる。しかし、ブラック&タンのバリエーションは消滅したといわれ、シェルティの愛好家の間では幻のカラーとして語り継がれている。

それから、コリーにはスムースコートのタイプが存在することにも注目されたい。一般に我々が目にするいわゆる「コリー」は、英語で「ラフコリー」。そして短毛のタイプは「スムースコリー」と呼ばれている。ただし、この両者を単なる「バリエーション」と言ってしまうと語弊がある。というのも、FCI傘下の国々や英国などのケネルクラブでは、「ラフコリー(FCI番号156)」と「スムースコリー(FCI番号296)」をそれぞれ別の犬種として認定しており、独立した純血種として取り扱っているからである。これら犬種同士の交配も原則として認められていない。

ただし例外もあり、たとえばフィンランド・ケネルクラブは、スムースコリーの遺伝的ボトルネックを補い、その健全性や多様性を保つことを目的として、ラフコリーの健康な遺伝子を導入する形での交配プロジェクトを進めている。

キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルととキング・チャールズ・スパニエル


左がキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、右がキング・チャールズ・スパニエル![Photo by Rikako Fujita]

そもそも名前からして似ているので、紛らわしい。冷静になってその名をよーく見てみると、「キャバリア」という単語が付いているかいないかが、2種を分けるポイントだ。それもそのはず、両者はもともと同じタイプの犬からできあがった犬種である。

ちなみに英語圏では、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは「キャバリア」、一方のキング・チャールズ・スパニエルは「チャーリー」の愛称で親しまれている。

この2種の違いを知るには、歴史をたどるのがいちばんわかりやすい。1600年代、イギリス貴族たちに愛された愛玩犬「トイ・スパニエル」こそが、キャバリアとチャーリーの共通の祖先。かつては猟犬としても愛玩犬としても使われていたこのタイプは、イギリスで初めてドッグショーが開催される1800年代初頭から、「犬種」としての特徴づけが急速に進んでいく。その過程で、ユニークな外見を求めた結果、日本の狆や中国のパグが掛け合わされた。そして誕生したのが、短頭・鼻ぺちゃの愛玩犬種、キング・チャールズ・スパニエルである。

一方、ペタンコ顔になってしまった「トイ・スパニエル」に落胆したとある愛好家が、「昔のタイプのトイ・スパニエルを復活させたい!」と立ち上がり、再現を目指してつくられたのがキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルというわけだ。

よってチャーリーの平たいマズルと独特なドーム型の頭部(チワワのような形状)は、キャバリアとの決定的な違いと言える。キャバリアの頭は比較的平たく、顔立ちもすっきりしている。どちらかというと、チャーリーは日本の狆に似た印象だ。

体格にも違いがあり、キャバリアは5.5〜8.0kg、キング・チャールズは3.6〜6.3kgとやや小ぶり。もともと同じ犬から派生したため、カラーバリエーションは共通しており、ブラック&タン、ルビー(赤)、ブレナム(白地に赤ぶち)、トリコロールの4種類がある。

性格面で言えば、誰にでも愛想よく接するのがキャバリア。一方で、チャーリーは一人の飼い主に深く懐くタイプ。そうした気質もあって、一般的な家庭向きなのはキャバリアの方である。世界的に見ても、小型愛玩犬として非常に人気の高い犬種だ。対してチャーリーは、日本国内に限らず欧米でもめったに見かけない希少犬種と言える。

まだまだ続きます、「この犬種似てる、でも違う!」。次回に乞うご期待。