文と写真:藤田りか子
チワワのユニークさというのはもちろんその小ささがではあるが、もうひとつ忘れてはならない特徴がある。チワワとくれば、そうアップル・ヘッド。すなわちその頭部のことだ。犬種標準書を見るとそこには「スカルは充分な丸みを持ったアップル・ヘッド状で…」と記載がある。FCIスタンダードには「チワワの特徴としては非常に大事」とも記されている。
とはいっても、ブリーダーやチワワに詳しい熱狂的な愛好家ではないかぎり、チワワの頭部のどこがどう一体“アップル”なのかやや分りづらいのではないかと思う。
「チワワがアップル・ヘッドなら、パグだってアップル頭っていってもいいのじゃないかしら?」
とも解釈したくなる。でもそれも微妙に違うのだ。
チワワのブリーダーの中にはミニチュア・ピンシャーのブリーディングも手がけていたという人がよくいるのだが、確かにスムースコートのチワワとミニチュア・ピンシャーはなんとなく似ているから2種に同時に惹かれるのは無理もない。しかしこの似たもの同士ですら、頭部を比べてみると違いがある。ミニピンの頭頂部はフラット。チワワはというとドーム型になっている。顔は丸く、といわれているパグと比べても、やはり頭頂部に差がある。ひとつ付け加えるとパグの場合、“丸い”といっても耳を含め頭部全体が円の中におさまる丸さのこと。マズルに長さのあるチワワとはやや性質を異にする。
ミニチュア・ピンシャーの頭部。頭頂部はフラット。
では頭頂部が丸ければチワワのアップル・シェイプとなるものなのだろうか?
コッカー・スパニエルの特徴的な頭部を見ると、これもドーム形ではある。そしてイタリアン・グレーハウンドだって前から見れば頭頂部は丸い。それでもこれら犬たちの頭がアップル・ヘッドと呼ばれないのは、チワワのようにスカルがどの角度から見ても丸の中に収まらないからなのだ。下図を参照していただきたい「前から見ても、横からも、上からみてもチワワのスカルは円の中にすっぽり入る」)いかにチワワの頭部が独特なのか、納得いただけただろうか。
前から見ても、横からも、上からみてもチワワのスカルは円の中にすっぽり入る (Chihuahuacirkeln Raskompediumより抜粋)
極端に丸いアップル・ドームなスカルだからだろうか、チワワには大人になっても頭頂部に骨が接合しない部分が残る個体もいる。この部分は触ると柔らかく、大泉門とかモレラと呼ばれている。モレラは人間の新生児にもみられ、だいたい18ヶ月になる頃までには閉じていく。犬の場合もチワワに限らず生まれたばかりの子犬にある場合もあるが、たいてい2~3ヶ月で閉じる。そもそも何故生まれたばかりの動物にモレラなんかがあるのかというと、産道を通るさいにその圧迫に耐えられるよう頭蓋骨に柔軟性が必要だから、そして脳がこれから成長していくのに頭蓋骨に少し余裕を持たせるためなのだ。
他の犬種においては、成犬になってモレラが閉じなければ頭蓋骨の形成異常として見なされる。以前はチワワもスタンダードではこれを一つの特徴として挙げていたが、FCIのスタンダードでは、現在失格とされる。経験深いブリーダーの証言によると、モレラは兄弟の中で一番サイズの小さい個体により高い確率で見られるとのことだ。
最後に頭にまつわる病気について紹介したい。水頭症だ。チワワに限らず小型犬(マルチーズ、ヨークシャー・テリア、ポメラニアン、短吻犬種等)に特有の病気で、先天性と後天性のものがあるが、チワワの場合ほとんど前者。
水頭症とは脳室のなかに脳脊髄液(CSF)が溜まる現象のこと(人間の子供にも見られる)。CSFは脳と脊髄を取り囲み衝撃などから守ったり、栄養を与える役目を果たす。この液は通常脊髄の排水路を通って血液の中に排出されるのだが、水頭症が起こるのはこの通路が閉じられCSFが排出できなくなった時。液で一杯なるから頭は膨らみ、脳が圧迫されるので脳細胞が正常に発達できなくなる。たいていは生後4ヶ月前までに診断される。症状としては、前頭部が膨らみ目玉が目の下側に下がる現象が見られる。症状は行動にも表れ、くるくる回るような動きをする、脚元がふらつく、体が震える、てんかんを起こす等。学習もなかなかできず正常な生活は難しい。一時、モレラがあれば水頭症の可能性が高いとも言われていたが、現在ではその相関性は否定されている。ただし水頭症にかかった個体は大きいモレラを持つ傾向があるようだ。
水頭症はほとんどの場合治療されることなく、たとえ薬品や手術による処置をしたとしても、あまり長生きは期待できない。多くの場合ブリーダーは水頭症と判明した時点で子犬を安楽死させる。水頭症は遺伝性。たとえ症状が軽くてなんとか愛犬が大人まで生き長らえても、不幸な子犬を出さないためにその個体は繁殖には決して使わないように!