犬と猫、仲良く暮らしてる?日本の家庭における現状

文:尾形聡子


[photo by Heidi Bollich]

世界的に人気の犬と猫。国や文化によってどちらが好まれるかの違いはあるものの、多くの世帯で犬か猫、あるいはその両方が暮らしています。アメリカにおける調査では、2020年に犬を飼育している世帯は45%(約8800万世帯)、猫は26%(約6100万世帯)、飼育頭数や市場規模などからみてもアメリカは世界最大のペット大国と言えるでしょう。ブラジルやイギリスなどのヨーロッパでも犬や猫との共生は非常に一般的です。アジアはどうかといえば、タイやインドでの犬の飼育は多く、それぞれ48%と44%、インドネシアでは56%の家庭で猫が飼育されているそうです(2023年発表データ)。

日本はこれらの国と比べると犬や猫の飼育率は低く、犬は9.1%、猫は8.7%の世帯が飼育しており、個体数としては犬が約700万頭、猫は約900万頭と報告されています(2023年、日本ペットフード協会調べ)。また、2019年にSBIいきいき少額短期保険株式会社が実施した調査では、ペットを飼っている1176人の回答者のうち、123人(11.1%)が犬と猫の両方を飼育していました。

犬と猫が同じ環境でストレスなく生活していくには、互いの行動を理解し、適切な関係を築く必要があります。たとえば犬と猫ではボディランゲージの意味が異なるものの、それぞれお互いのサインをある程度理解できると考えられています。以下の藤田りか子さんの記事はまさに、犬と猫のボティランゲージをテーマとしたものです。

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犬と猫は異なる種の生物ですが、良好な関係を築いているケースは決して少なくありません。それには特に猫側の要因が大きく影響することがこれまでの研究で示されていますが、猫次第になる面が大きいとされるとしても、子犬を早期かつ段階的に猫に慣らしていくことが友好な関係の構築に有効だと言われています。

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しかし、このような犬と猫の共存における関係性や相互作用についての研究はあまりされておらず、人と犬あるいは人と猫との関係性に関するものが主流です。さらに、日本の住宅事情のことを考えると、欧米の家庭に比べて犬と猫の距離が近く、相互作用の頻度も高くなる可能性が考えられるのですが、日本で犬と猫の異種間コミュニケーションについて調べた研究はこれまでにありませんでした。

このような背景から、大阪大学の鹿子木康弘教授が率いる研究チームは、日本の犬猫飼育家庭を対象にアンケート調査を実施し、欧米との比較を通じて日本での犬と猫の共生関係に影響を与える文化的・環境的要因を明らかにしようとしました。両種における福祉を守るために重要だと考えたためです。


[photo by Africa Studio]

多くの家庭で犬と猫は友好的に暮らしている

研究者らは、英国リンカーン大学が2018年に発表した「同居する犬と猫の関係性を評価する質問票」をもとに、改変追加したものを使用して犬と猫の両方と暮らしている飼い主にオンラインアンケートを行いました。アンケートは飼い主の情報、犬猫の入手情報、犬と猫の基本情報、犬と猫の関係に関する情報、同居しはじめた年齢、犬と猫の友好度などを尋ねる内容でした。

777名の飼い主のアンケートが解析対象とされました。このような研究では非常に珍しいことに、飼い主の半数以上が男性(56.8%)で、30〜59歳の年齢層がおよそ全体の4分の3、71.6%となっていました。78.8%が一戸建てに暮らし、66.3%が世帯人数は3人以上、81.9%の世帯で未就学児がいませんでした。

犬の飼育頭数で最も多かったのが1頭(82.1%)、猫も1頭(66%)でしたが、3頭以上飼育している世帯は犬(3.9%)よりも猫のほうが多く14%でした。

犬の平均年齢は7.25歳、猫は6.12歳でいずれも多くは生後半年になる前に飼い始められていました。そしてそれぞれが犬あるいは猫と初めて会ったのも生後半年未満が最も一般的であることがわかりました。

最初に飼い始めたのは犬の方が多く58.2%、猫が先のケースは34.1%、わずかではあるものの同時だったという人も7.7%いました。犬と猫が一緒に暮らしている期間は2〜5年が一番多く35.1%、1〜10年が全体の8割となっていました。

犬と猫の交流頻度などについては、ほとんどの犬猫はほぼ毎日同じ部屋で過ごす時間があるようで、相手がいてもお互いに不快そうにはしていない状況でした。ただし、お互いにグルーミングをし合うことはあまりありませんでした。一緒に遊ぶか、一緒に寝るか、の質問については、「まったくない/ほとんどない」と「少なくとも週に1回〜毎日」とがほぼ半々となっていました。

犬と猫の仲については、犬も猫もお互いに心地よく友好的な関係性であるとの回答が8割弱でした。犬が猫を脅したことがあると回答したのは32.6%、逆に猫が犬を脅したことがあったのは41.6%、犬が猫をケガさせたことがあるのは5.5%、逆に猫が犬を怪我させたのは10.6%でした。

以下の図は、犬と猫の仲良し度を飼い主が10段階評価したものです。平均は6.64で、友好的な関係(friendly)である犬と猫が多いことがわかります。


[image from Scientific Reports fig3] 飼い主による犬と猫の友好関係(Amicability)の評価。

犬と猫が仲良くなる要因は?

犬と猫の仲の良さと関連する要因を分析したところ、人口統計学的要因のなかで最も関連性の強かったのは「食事の場所が近いほど友好的である」ことでした。ついで「犬が室内で過ごす時間が長いほど友好度が高くなる」「猫を犬に合わせる年齢が若いこと」「同居期間が長いこと」「猫が不妊化手術を受けていないこと」「犬を猫に合わせるときの年齢が若いこと」となっていました。

猫と犬のコミュニケーション行動があるかどうか、における要因については、最も関連性が強かったのは「猫が快適に過ごせていること」で、続いて「犬が快適にしていること」「犬が猫に見せるためにおもちゃを持っていくこと」「猫が犬を威嚇しないこと」「猫が犬の前でゴロリとすること」「犬が猫を威嚇しないこと」「犬が猫の前でゴロリとすること」となっていました。

猫と犬のコミュニケーション行動の頻度における要因については、最も関連性が強かったのは「犬と猫が遊ぶ頻度が高い」で、次いで「犬が猫がいることが不快でないこと」「犬と猫が同じ部屋で過ごす頻度が高いこと」「猫が犬がいることが不快でないこと」「猫が犬をグルーミングする頻度が高いこと」「犬が猫をグルーミングする頻度が高いこと」となっていました。


[photo by vvvita]

犬と猫の友好関係に関するこれらの結果を以下にまとめます。

  • 犬と猫それぞれの要因が影響:これまでの欧米の研究では犬猫の友好関係について猫要因の方が強いとされていたが、日本では犬の要因と猫の要因それぞれが関係していることがわかった。
  • 若いときに合わせることが効果的:犬猫の両方を若い時期に合わせることで、お互いのボディランゲージを理解しやすくなり、友好的な関係が築かれやすい。
  • 関係構築において犬が主導的な役割:日本の猫は欧米の猫より人懐こさが低いため、犬がお互いの関係を構築するにあたりより主導的な役割を持つ傾向にある。しかしそれは、犬は社交的であるべき、猫は守られるべきというようなバイアスがかかった見方を飼い主がすることで、犬猫の関係構築に影響を与えている可能性もある。
  • 小型犬の多さが原因か、犬から猫への攻撃:日本では小型犬が多いためか攻撃性や不安傾向が高く(ペットショップから購入される犬が多いためかもしれない)、それが猫との関係に影響を及ぼしている。犬が猫に対して脅したり攻撃したりする割合は欧米よりも高かった。

多くの犬猫多頭飼育の世帯で犬と猫は仲良く暮らしている結果となっていましたが、少数派ではあるもののあまり仲が良くないケースがあるのも見過ごせないところだと思いました。犬と猫、それぞれの毎日の暮らしが平和で楽しくなるように、犬と猫の多頭飼育を考えている方は今回の研究結果をぜひ参考にしてみてください!

【参考文献】

Exploring dog and cat cohabitation within Japanese households. Scientific Reports. 15(1):16965. 2025

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